福岡地方裁判所 平成4年(ワ)299号 判決 1999年9月28日
当事者
別紙当事者目録記載のとおり
主文
一 (被告野村證券関係)
1(一) 被告野村證券は、原告X1に対して金二二五万一一四〇円、原告X2に対して金九〇万六一〇〇円及び右各金員に対する平成四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 原告X1、原告X2のその余の請求をいずれも棄却する。
2 原告X3、原告X4、原告X6及び原告X7の被告野村證券に対する請求をいずれも棄却する。
二 (被告大和証券関係)
1(一) 被告大和証券は、原告X5に対して金七三八万〇一八八円及びこれに対する平成四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 原告X5の被告大和証券に対するその余の請求を棄却する。
2 原告X13及び原告X14の被告大和証券に対する請求をいずれも棄却
三 (被告国際証券関係)
原告X10の被告国際証券に対する請求を棄却する。
四 (被告日興證券関係)
1(一) 被告日興證券は、原告X11に対して金一一二万七〇〇〇円及びこれに対する平成五年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 原告X11の被告日興證券に対するその余の請求を棄却する。
2 原告X8、原告X9、原告X12及び原告X15の被告日興證券に対する請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、別紙訴訟費用目録記載のとおりの負担とする。
六 この判決は、一1(一)項、二1(一)項、四1(一)項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
別紙請求の趣旨記載のとおり(遅延損害金は年五分の割合)
第二事案の概要
本件は、証券会社と取引を行っていた原告らが、被告らの担当者から、違法な勧誘を受けてワラントを買い付けたところ、権利行使期限を徒過し価値がなくなったあるいは価格が大幅に値下がりしたために損害を受けたとして、被告らに対し、不法行為(使用者責任)に基づいて損害賠償を請求している事案である。
第三前提事実
以下の事実は、証拠(甲一ないし四、一〇、一二、一三、乙イ一、二の1、2、六、八、一〇の1、2、一二の1、2、一五、一六の2、乙ロ一ないし三)及び弁論の全趣旨により認定できる。
一 ワラントの意義
ワラントとは、新株引受権付社債(ワラント債)に表彰されている新株引受権のことをいう。つまり、予め決められた期間(権利行使期間)に、予め決められた一定の価格(権利行使価格)で、予め決められた一定数の新株の割当を受ける権利のことをいう。
二 ワラント取引開始に至る経緯
新株引受権付社債制度は、昭和五六年商法改正により制度化された。これは、経済界から、資金調達手段の多様化、外貨建金銭債権の為替リスクヘッジのため、右制度創設の要望が出ていたことを受けたものである。
社団法人日本証券業協会(以下「証券業協会」という。)は、昭和五六年九月三〇日、理事会で、分離型新株引受権証券(ワラント)の受入体制が整備されるまでの間の自主的規制措置として、分離型新株引受権付社債(ワラント債)及び新株引受権証券(ワラント)の取引を一切行わない旨決議した。この結果、分離型ワラントについては、海外で発行される場合のみその発行が認められ、国内における発行、取引は、国内市場の受入体制が整備されるまでできないこととなった。
証券業協会は、昭和六〇年一〇月三〇日、理事会で、新株引受権付社債が制度化されて四年が経過し、市場の受入体制が整備されたと判断し、前記昭和五六年九月三〇日付理事会決議を廃止する旨、決議した。これにより、分離型ワラントについて、同年一一月一日から国内における円建ての発行が、昭和六一年一月一日から海外で発行された外貨建ワラントの国内取引がそれぞれ行われるようになり、現在に至っている。
三 ワラントの概要、価格の特徴
1 ワラントの意義
ワラントには、その権利(新株引受権)を行使できる期間(権利行使期間)が設定されている。権利行使期間は、ワラント債発行時に予め決められている。通常、国内発行銘柄では六年、海外発行銘柄では四、五年である。権利行使期間を徒過すると、ワラント(新株引受権)は消滅する。
また、新株引受権行使に際して、どの程度の価格で行使できるかについても、ワラント債発行に際して予め決められている。通常、当時の株価を基準として設定される。
割り当てられる新株数についても、予め決まっている。通常、ワラント債の社債部分の額面金額と同額分割り当てられる。したがって、右額面金額を権利行使価格で除した数ということになる。
2 ワラントの価格の特徴
ワラントとは、前述したように、新株引受権、すなわち、所定の期間内に、所定の数の新株を、所定の価額で発行するように請求できる権利のことである。したがって、その価値は、理論的には、権利行使をして新株を取得することが、株を直接取得するよりも有利なのかどうかによって決定される。
ワラントを取得して権利行使することが、直接株式を取得することと同価値である場合において、そのワラント価格を理論価格(パリティ)という。このほかに、将来株価が権利行使価格(あるいはそれにワラント価格を加えた価格)を上回ると期待される場合には、ワラントはパリティを上回る価格で取り引きされることになる。その差額部分のことをプレミアムという。
第四当事者の主張(ワラントについての総論)
(原告らの主張)
原告らは、ワラントについて以下のように敷衍した上、次のように主張する。
一 ワラント価格について
ワラントの価値を決定する要因は、額面額(ワラント債の発行価格)、固定為替(ワラント債発行時の為替レート)、約定為替(ワラント購入時の為替レート)、ポイント(当該ワラントを購入する際のワラントの価値を百分率で表示したもの。)、権利行使価格、株価である。
これ以外に、ワラントには、付与率、行使株数、行使期限、取引数量などの要素があるが、これらはワラントの価値とは関係ない。
外貨建ワラント価格は、額面額×(ポイント÷一〇〇)×約定為替で求められる。取引額は、ワラント価格に取引数量を乗じたものとなる。割り当てられる新株数(行使株式数)は、額面額×固定為替÷行使価格で求められる。
二 ワラント投資により利益を上げる方法
ワラント投資の目的は当然利益を上げることであるが、その方法としては、ワラントを行使して新株を取得する方法と、ワラント自体をより高値で売却する方法とがある。
前者の方法で利益を上げるには、現在の株価がワラント購入価格、権利行使価格を上回っている必要がある。しかし、右のような場合であっても、株を直接取引する方が利ざやが大きいため、ワラントを行使して利益を上げようとする投資家は実際にはほとんどいない。ワラントを行使することにより利益を上げる場合としては、理論的には、現在は株を購入する資力はないが将来資金調達できる見込みがあり、かつそのころには株価は現在の株価はおろかワラント価格、権利行使価格さえも上回る可能性がある場合に限られる。
後者の方法で利益を上げる場合にも、ワラントの価値の本質は、最終的に権利(新株引受権)を行使して、そのワラントが表彰する株を取得することであることを考慮しなければならない。ワラント価格は、権利行使期間内に、株価がワラント価格、権利行使価格を超えると予測するか否かによって値動きする。したがって、株価が上昇したとしても、それが、ワラント価格に権利行使価格を加えた金額を上回ると予測されなければ、株価上昇はワラント価格には影響がない。
三 投資家がワラント投資に際して認識しておくべき事項
投資家が、実際に権利行使をすることにより利益を得ようとする場合、株ではなくワラントに投資する場面は、ワラント価格と権利行使価格を合算した価格が株価を下回っている場合ということになる。しかし、右のような状況でも、直接株式を購入した方が、ワラントを権利行使して取得した株式を売却することにより利ざやを稼ぐ方法よりも投資効率が良い。したがって、ワラントを購入するのは、現在は株式を購入するだけの資金が手許にないが、近い将来その資金が入る可能性があり、かつそのころには株価が、権利行使価格にワラント価格を合算した価格以上に上昇している可能性がある場合という、極めて稀な場合ということになる。
実際にも、原告らは、ワラントを権利行使することによって利益を上げようとしたのではない。
次に、ワラントを売却することにより利ざやを得る場合、投資家が認識すべき事項についてであるが、株価が上昇すると予測した投資家が、株取引ではなく、ワラントを購入しようとする場合には、ワラントの商品性のうち、以下の事実を認識しておく必要がある。
1 ワラントの仕組み
ワラントとは、新株引受権を表彰した証券であり、その価値の本質は、権利行使価格と株価との価格差にあることは、必ず理解しておく必要がある。
2 パリティ、プレミアム、ギヤリングレシオ等の一般知識
右のことから、パリティについての知識も不可欠である。またワラント価格はポイントで示されるので、ポイントについての理解、ポイントをもとにしたワラントコストの計算方法などの知識も必要である。
3 当該ワラントの権利行使価格、権利行使期限等の基本的要素
これらがわからなければ、ワラントの価値は全くわからない。
証券会社は、預り証、通知書に、権利行使価格を記載していない。投資家が権利行使価格を知るには、会社四季報等を読むほかない。
4 当該ワラントのパリティ等
これがワラントの価値の本質であるから、その認識は不可欠である。
5 株価
これも不可欠である。
6 当該ワラントの一株当たりの取得費用(理論株価)
これが、ワラント価格に権利行使価格を合算した価格である。
7 株価が、理論株価を権利行使期間内に超えることがあるという予測
単に株価が上昇するという予測では意味がないことは、先に述べたとおりである。
これらのうちのひとつでも認識していないと、投資家が自己の判断でワラントを購入したとはいえないのである。
なお、被告らの担当者は、ワラントについて、株が一割値動きすると、ワラントは三割値動きするというような説明をしている。しかし、前述したように、ワラントの価値の本質は、権利行使価格にワラント価格を加えたものが、株価を下回っているかどうかにより、決定されるのである。株価が権利行使価格さえも上回る見込みがない場合には、株価が上昇しても、ワラント価格には影響ない。このように、ワラントの価格は株価とは連動しないのであり、あたかも株価と連動するかのような説明は適切でない。
四 ワラント市場について
被告らの勧誘の違法性を検討するに当たって重要なのは、外貨建ワラントが相対取引であること、市場が整備されていないことである。
ワラント市場は未整備であり、その価格形成過程は極めて不透明である。また、通常の株取引と異なり、証券会社と投資家が対等の当事者となって売買を行うことになっており、証券会社と投資家との利害は対立する。したがって、限りなく対等の知識、理解力が要求されるのである。
五 ワラント勧誘が禁止される場合
1 ワラントの構造について理解できない者については、そもそもワラントを勧誘してはならない。ワラントは、前述したように複雑な構造を持ち、かつ相対取引で投資家と証券会社との利害が対立する商品なので、ワラントを理解できない者については、証券会社はワラントを勧誘してはならない義務がある。
2 仮にワラントを理解できる能力があったとしても、ワラントが極めてリスクの高い商品であること、相対取引で市場が未整備であることからすると、十分な資金を有しない者あるいは取引経験が浅い者についても、ワラントを勧誘してはならない義務があるというべきである。
六 ワラント勧誘に際して行うべき説明の範囲、程度
1 説明の範囲
右のように、ワラントの商品構造を理解する能力を有し、かつ一定の取引経験、資金を有する者に対してのみ、ワラント勧誘は許されるというべきである。
その際、証券会社は、一般投資家にとってワラントはなじみの薄い商品で、相対取引であることなどの諸事情を考慮すると、投資家が投資手段としてワラントを選択できる程度に、ワラントについて説明する義務があると考えるべきである。
そうだとすると、証券会社は投資家に対して、以下の点を説明する義務がある。
(一) ワラントには権利行使期限があること及びそれを徒過するとワラントは価値がなくなることを説明しなければならない。
(二) ワラントの商品構造について、パリティ、プレミアム、ポイント、行使価格等の意義、相対取引であること、市場が未整備で、価格設定については証券会社の裁量の余地が大きいことについても、説明する義務がある。
ワラントの商品性を理解できない限り、自らの責任でワラントに投資することはできない。また、相対取引であることがわかれば、投資家も証券会社従業員の説明、勧誘を鵜呑みにせず、慎重に検討するからである。
(三) 勧誘するワラントのポイント、固定為替、約定為替、権利行使期限、権利行使価格などの数値を説明することはもとより、パリティ、プレミアム、ギヤリングレシオなどの具体的数値も説明すべきである。投資家が、当該ワラントのパリティ、プレミアム、ギヤリングレシオなどの数値を算出することは困難である。
さらに、ポイントが上昇した場合の利益、株式投資よりも有利である根拠等も説明する義務がある。
2 説明の程度
前述したように、ワラントの構造が複雑なことから、説明は電話で行うのは不可能である。事後説明は当然許されず、パンフレットを渡す程度では当然不十分であることはいうまでもない。直接対面し、じっくりと説明すべきである。
(被告らの反論)
ワラントについての原告ら主張につき、被告らは以下のように反論する。
一 ワラントに関する商法改正の経緯
新株引受権付社債(ワラント債)制度導入は、企業の資金調達手段の多様化、為替リスクの回避、国民の資金運用手段の多様化を図る目的で導入されたのである。この間、関係業界が制度創設について、立法関係者に対して不当な影響力を行使したり、基礎資料を誇張ないし歪曲したことはない。
二 ワラント取引の開始に至る経緯
証券業協会は、昭和五六年九月三〇日理事会決議をもって、分離型ワラントについては海外で発行する場合のみその発行を認め、国内における発行及び取引は、その取引を一切行わないことを定めた。しかし、右理事会決議は、分離型ワラントの流通市場の整備に問題があったためであり、分離型ワラントそれ自体の危険性によるものではない。かつ、証券業界独自の判断で自粛したのであり、法律その他外部から禁止されたのではない。
国内市場において分離型ワラントの取引が自粛された結果、我が国企業のワラント債発行は海外市場にシフトすることとなった。このような状況下、ワラント債には、発行会社、投資家の双方に利点があること、その利点は分離型ワラントの場合により発揮されること、分離型ワラントを国内市場で発行することにより国内の証券市場の振興、国際的に通用する市場の育成に資すること、新株引受権付社債制度が導入されて四年が経ち、ワラントが国内証券市場にもなじみが出てきたことから、国内における分離型ワラントの発行、取引を認めるべきではないかという意見が出されるようになった。そこで、証券業協会は、昭和六〇年一〇月三一日の理事会決議により、前記昭和五六年九月三〇日付理事会決議を廃止した。
これにより、分離型ワラントが、昭和六〇年一一月一日から国内における円建ての発行が、昭和六一年一月一日から海外で発行された外貨建ワラントの国内取引がそれぞれ行われることになり、現在に至っている。
三 ワラント価格
ワラントの価格は、原則として発行会社の株価の変動に連動し、その変動率は株価よりも大きくなる。
また、ワラントが取引される際には、将来の値上がりが期待される(権利行使価格を超える。)場合には需要があり、市場価格がつく。ワラント価格と理論価格との差額であるプレミアムは、株価が権利行使価格を上回っているかどうかに関わりなく、権利行使期間内に株価が権利行使価格を上回る可能性がある限り存在する。
プレミアムは、将来の株価値上がり期待を反映したものであるから、残存する権利行使期間が長いほどプレミアムは大きくなり、期間が短いと小さくなる傾向を持つ。そして、株価が権利行使価格を下回っている場合でも、将来株価が上昇する期待があれば価格がつき、値上がりすることもあるが、株価が権利行使価格を大きく下回り、かつ残存権利行使期間が短い場合には、ワラントの価格は限りなくゼロに近づくことになる。
ワラントの価格は、基本的には理論価格(パリティ)によって決定されるから、発行会社の株価に連動し、かつその変動率は株価よりも大きいということができるが、実際のワラントの市場価格には理論価格(パリティ)の外にプレミアムの部分もあるから、ワラント価格が常に株価の変動に連動するとは限らない。株価が下がっている場合でも、中長期的にみて株価の先高期待感が強ければワラント価格は下がらないということがあり得るし、その逆の場合もありうる。
四 ワラント取引の仕組み
外貨建ワラントは、海外の証券取引所に上場されているものもあるが、国内では、証券会社の店頭で売買される。したがって、外貨建ワラントについては相対取引が原則となっており、いくつかの日本の証券会社や東京にある外国証券会社が独自に各銘柄の気配値を出し、顧客との間に直接相対で売買を成立させている。
ワラントの売買価格(気配値)は、前日のロンドンにおける業者間マーケットの最終気配値を参考に、当日の東京市場の株価動向を考慮して、各証券会社で決定される。したがって、証券会社により多少売買価格が異なることもあるが、各社とも一定の数値、基準により売買価格を決定しているのであって、恣意的に決められているわけではない。
また、ワラント価格は、平成二年九月二五日以降は、ワラントの業者間取引が日本相互証券を通じたものに集中されたのと同時に、日本相互証券の取引時間中に証券会社が顧客とのワラント売買取引を行う際には、業者間取引において日本相互証券に発注されている銘柄毎の売買注文直近の仲値を基準として一定の値幅の範囲内で決定されることになった。
証券会社は、ワラントの手持ちがある限り、証券会社の表示した気配値で顧客の注文に応じている。
五 ワラント売買価格の公表
分離型ワラントの国内取引が開始された当初、外貨建ワラントの売買価格は一般に発表されていなかった。しかし、証券業協会は、一般投資家の市場参加が増加したことを受け、平成元年五月一日以降、市場性の高い代表的な銘柄について、業者間取引における店頭気配(売り気配値、買い気配値の各平均値、最高値、最低値)を、毎日発表することにした。これにより投資家は、気配発表銘柄の店頭気配を情報端末で知ることができるようになった。日本経済新聞も気配値を掲載するようになった。
また、平成二年九月二五日以降、すべての銘柄の業者間取引が日本相互証券を通じて行うこととされ、証券会社が日本相互証券に発注した外貨建ワラント売買注文における、銘柄毎の気配、約定値段、出来高等の情報に関して、午前、午後の取引終了後の情報が、日本相互証券から直ちに発表されることになった。投資家は、右情報についても、情報端末、日本経済新聞等により知ることができる。
六 ワラント取引説明書と確認書
証券業協会は、平成元年四月一九日、理事会決議をもって、外国ワラント取引については、証券会社から顧客に対して「説明書」を交付すること、顧客の判断と責任において取引を行う旨の確認書を徴収することを定めた。また、平成二年三月一六日、同旨の内容に、協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則(公正慣習規則第九号)の一部を改正した。右決議等を受けて、被告らは、所定の措置を講じた。
なお、先物取引、オプション取引については、証券取引法に、説明書を顧客に交付するように定められている。これに対し、ワラントについては、法律にそのような規定はなく、証券業協会の自主的な決議、規則で規定されているにすぎない。
これは、ワラント取引が、先物取引、オプション取引と比較して、一般的に危険が少ないと理解されていることを示すものである。
七 ワラント投資の利点及び危険性
1 ワラント投資には、以下のような利点がある。
(一) 高収益性
ワラントは、株価上昇時には、ギヤリング効果により、株式投資以上の高収益を享受することが可能である。
(二) 少額資金による投資可能性
ワラントは、株式投資に比較して、少ない資金で投資ができ、かつ株式投資以上の高収益が期待できる商品である。したがって、ワラント投資を行うことにより、余剰資金を他に投資することが可能となり、リスクの軽減を図ることができる。
(三) リスク限定性
ワラント取引のリスクは、最大でも投資額に限定されている。この点、株式の信用取引では、損失額を限定することはできない。
(四) 中、長期的投資性
ワラントの権利行使期間は、通常四ないし六年と長期である。したがって、投資家は、時間的余裕と展望を持って投資に望むことができる。この点、株式の信用取引では、最長でも六か月以内に決済しなければならない。
2 他方、ワラント投資のリスクとしては、以下のようなものがある。
(一) 権利失効リスク
権利行使期限を徒過すると、ワラントは無価値となる。しかしこれはワラントが期限付きの権利であることから当然のことであり、かつ権利行使期限については、ワラント発行時に予め決められている。
(二) 株価変動リスク
ワラント価格は株価に連動して、かつギヤリング効果により株価よりも大きく変動する。しかし、ワラントのハイリスク・ハイリターンの傾向は、ワラントの商品としての特性であり、高い投資効率を有する商品には高いリスクが伴うのである。
(三) 為替変動リスク
外貨建ワラントの場合、売買代金が約定日当日の為替相場により影響を受けることであるが、為替レートについては一般に知れ渡っており、常識化している。なお、新株引受権行使の際の為替レートは、権利行使価格その他の条件とともに予め決定、固定されており、行使価格、引受株数が為替レートにより影響を受けることはない。
八 説明義務について
ワラントには、以上述べたような特徴があるが、被告らには、一般的には、ワラントについての説明義務はないというべきである。
投資家は、それぞれの置かれた状況に応じ、自らの判断と責任で、投資の対象、数量、時期等を決めるのであり、その結果として利益を上げた場合にはそのすべてが投資家に帰属するように、損失を生じた場合にもそのすべてが投資家の負担となる。そして、投資をするに際して、その判断の前提となる商品の内容等についても、投資家が必要と考える事項について調査すべき責任は、基本的には投資家にあるというべきである。証券取引法も、投資家の調査活動や判断を阻害することを禁止しているにすぎない。
仮に、信義則上、被告らに説明義務が認められるとしても、説明すべき内容は、ワラントが他の商品にはない危険性(権利失効リスク、権利変動リスク)を有していると説明すれば足りるというべきである。
第五当裁判所の判断(ワラントについての総論)
一 証券取引法の規定等
証券取引法は、断定的判断の提供(同法五〇条一項一号)、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為(同法五〇条一項六号、証券会社の健全性の準則に関する省令二条一号)をそれぞれ禁止している。また、大蔵省証券局長通牒では、投資勧誘に際しては、投資者の意向、投資経験及び資力等にもっとも適合した投資が行われるよう十分配慮すること、特に証券投資に関する知識、経験が不十分な投資者及び資力の乏しい投資者に対する投資勧誘については、より一層慎重を期することとされている(適合性の原則)。
二 説明義務
1 ワラントの商品性
ワラントとは、前述したように、新株引受権すなわち、予め決められた期間内に、予め決められた一定の価格で、予め決められた一定数の新株割当を受ける権利のことをいう。ワラントの特徴としては、権利行使期限を過ぎると価値がなくなってしまうこと、権利行使価格が決められており、権利行使して、所定の価額を払い込んで新株を取得することが、直接株を取得することよりも有利なのかどうか、つまり株価が権利行使価格(ワラント価格も考慮される。)を上回るかどうか、その予測が重要な要因となることが挙げられる。
ワラントは、株価が権利行使価格を大きく上回ると予測される場合には大きく値上がりする反面、権利行使価格を上回る見込みがない場合には価値がほとんどなくなり、権利行使期限を徒過すると価値がなくなるなど、極めて投機性が高い。
2 ワラントについての説明
以上のようなワラントの商品性からすると、証券会社は、前述したようなワラントの商品性について説明することが望ましいということができる。
もっとも、証券会社と証券取引を行う投資家も一様ではない。したがって、一般的な基準として、ワラントの商品性を説明する義務があるかどうか、また説明の内容としてはどの程度のものが要求されるかを決することはできない。これらのことは、投資家の経歴、投資経験等の諸事情を考慮して、個別具体的に決定されることである。
なお、原告らは、マイナスパリティのワラントを勧誘することは違法であると主張する。なるほど、確かにマイナスワラントは、株価が権利行使価格を下回っているのであるから、そうでないワラントと比較して危険性が高いということはできる。しかし、ワラントの価値は、権利行使期間内に株価が権利行使価格を上回る可能性があるかどうかによって決定されるのであり(ポイントも考慮される。)、現在マイナスパリティであるから当然に価値がないということはできない。また、ワラント自体の価格(ポイント)がどの程度かということにも影響されるものである。したがって、マイナスパリティのワラントを勧誘することが当然に違法であるということはできない。もっとも、個別具体的な事情において、説明義務の内容となりうることは当然である。
以下、各当事者毎に検討する。
第六原告X1、被告野村證券
(前提事実)
原告X1は、被告野村證券担当者A5の勧誘により、平成元年一二月一九日、日商岩井ワラント(以下本項で「本件ワラント」という。)一六ワラントを、単価三五・五ポイント、代金四一〇万二二八〇円で購入した。
(原告X1の主張)
一 適合性の原則違反
原告X1は、昭和五七年ころから、被告野村證券久留米支店で国債を購入するようになり、昭和六〇年四月に荏原製作所の株式を購入して以降株取引を行うようになった。しかし、原告X1は、被告野村證券担当者に勧められるまま、株の売買を行っていたにすぎない。
このように、原告X1の投資経験は浅く、リスクが高いワラントを勧誘したのは適合性の原則に反するものである。
二 説明義務違反
A5は、原告X1に対し、本件ワラントを勧誘する際、ワラントの商品性やその危険性について一切説明をしなかった。
三 断定的判断の提供
A5は、平成元年一二月一八日午前八時ころ、原告X1の自宅に電話をかけ、「この前の損を取り戻してあげます。日商岩井を買いませんか。今人気がありどんどん上がっています。絶対に儲かりますよ。」などといって、本件ワラントを勧誘した。
四 虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A5は、本件ワラントを勧誘する際、ワラントという言葉を使わず、単に日商岩井としか告げなかったので、原告X1は、日商岩井の株の一種を購入したのだと思っていた。このように、A5は、ワラントについて、虚偽あるいは誤解を生じさせる説明をした。
(被告野村證券の反論)
一 適合性の原則について
原告X1は、昭和七年生まれ、福岡県○○町役場に勤めた後、昭和四〇年から、X1石油株式会社のオーナーとして、同町内でガソリンスタンドを経営している。原告X1は、ワラントを買い付けた平成元年当時は、同社の社長をしており、○○町議会議員、○○町商工会会長でもあった。
また、原告X1は、昭和五七年に、被告野村證券久留米支店に証券取引口座を開設してから、被告野村證券との間で、株式、投資信託、転換社債等、多数の商品の取引を行っており、その中には、為替リスクを伴う外貨建の株式、投資信託、債券もあり、証券取引の経験は豊富だった。原告X1は、日本経済新聞等を購読し、株価もみていた。
さらに、原告X1は資産家であり、証券取引の資金量も多く、本件ワラントはその一部を振り分けたものだった。
したがって、原告X1は、ワラント取引を行うに際して、判断力、資金力とも十分な適性を有しており、適合性の原則に反することはない。
二 説明義務について
A5は、原告X1が本件ワラントを買い付ける際、電話でワラントの説明をした。また、その直後、A5は原告を訪問し、ワラント説明書を交付した。さらに、被告野村證券は、原告X1が本件ワラントを買い付けた直後、その取引報告書に「ワラント取引のご案内」を同封した。そして、被告野村證券は、原告X1に、平成二年二月末日現在のものから、「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」を送付しており、その裏面にはワラントについても説明が記載されていた。
このように、A5は原告X1にワラントについての説明を行っており、説明義務違反はない。
仮に説明義務違反があったとしても、原告X1は、本件ワラントが値上がりしていることを知りながら売却しなかったのであるから、損害との因果関係はないというべきである。
三 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A5は、原告X1に本件ワラントを勧誘する際、絶対に儲かるなどと、断定的判断の提供をしたことはない。また、ワラントについて、虚偽あるいは誤解を生じさせる説明をしたことはない。
(当裁判所の判断)
一 事実経過
1 原告X1の社会的地位、投資経験
原告X1は、昭和四〇年に○○町役場を退職した後、ガソリンスタンド事業を始め、平成四年七月からはX1石油株式会社の会長に就任している。本件ワラント取引があった平成元年当時は、同会社の社長であり、○○町議会議員、○○町商工会会長を務めていた。
原告X1は、昭和五七年二月二二日、被告野村證券久留米支店に、保護預り口座設定申込書、総合取引申込書、外国証券取引口座設定申込書を提出、証券取引を行うようになった。当初は国債等の購入が主だったが、昭和五九年ころから外国株式や国内株式にも投資するようになった(甲イ一〇〇一、乙イ一〇〇一の1、2、一〇〇二、一〇〇三、原告X1本人)。
2 本件ワラント取引の経緯
A5は、平成元年一一月、被告野村證券久留米支店に配属となり、前任者から原告X1の担当を引き継いだ。
A5は、同年一二月一八日午前七時三〇分ころ、久留米支店で勤務していたところ、原告X1から電話を受け、アマダ株式の売り注文(一株二一五〇円)を受けた(なお、アマダ株の買値は一株二〇八〇円。)。そして、同日午後、原告X1が来店して、A5が応対した。この時、原告X1は、金貯蓄の申し込みを行った。そして、金貯蓄のために、二〇〇万円を被告野村證券久留米支店に送金した。
A5は、同日午後七時ころ、原告X1に電話をかけた。そして、アマダ株式の取引結果を報告するとともに、本件ワラントの買付を勧誘した。A5が原告X1にワラントを勧誘したのは、従前の取引経過を見て外国証券の取引を行っていたこと、株式にも投資していたこと、会社を経営しており、判断能力にも問題がないと考えたからであった。A5は、原告X1に、ワラントとは新株を引き受けることができる権利であること、ハイリスクハイリターンで、株価と連動するが株価よりもかなり大きな値動きをすること、権利行使期限があり、それを過ぎると価値がなくなることを説明するとともに、ワラントについて、その権利行使価格、権利行使期限、外貨建なので為替の影響を受けること、日商岩井の株価等も説明した。その結果、原告X1は、翌日の本件ワラントが当日のポイントである三六ポイントまでであれば買い付けることとした。
翌日、原告X1は、本件ワラントを、三五・五ポイントで買い付けた。そして、A5は、同日午後一時ころ、原告X1を訪問して、ワラント取引説明書を渡した。そして、ワラント取引に関する確認書を後日郵送するよう依頼した。右確認書は、平成二年一月四日までに、被告野村證券久留米支店に郵送された(甲イ一〇〇二、一〇〇六、乙イ一〇〇三、一〇〇四、一〇〇六、一〇一〇の1ないし4、一〇一一、一〇一二、証人A5)。
3 本件ワラント取引後の経緯
原告X1は、同月末ころ、A5に電話をかけ、本件ワラントの値動きを質問した。A5が、本件ワラント価格が三七ポイントで、買付価格より上昇していること、相場環境からするともう少し待って売却した方がいいのではないかと伝えたところ、原告X1は、A5の助言に従い、本件ワラント売却を見送った。
原告X1は、平成二年一月一七日、取引を行った際、本件ワラントの価格を質問した。それに対し、A5は、二九・五ポイントくらいであると回答した。
A5は、同年八月ころ、本件ワラント価格が下値に近いのではないかと判断し、A5の顧客すべてに対し、ナンピン買いを勧めた。しかし、原告X1は相場が不安定であることを理由に買い付けなかった。
平成五年二月二四日、本件ワラントは権利行使期限を迎え、価値がなくなった(乙イ一〇〇三、一〇〇五の1ないし9、一〇〇六、一〇〇七、一〇〇九、一〇一二、証人A5)。
原告X1供述について
これに対し、原告X1は、A5から、平成元年一二月一八日午前八時ころ、電話があり、アマダ株の売却と本件ワラントの買付を勧誘された、この時、A5から、ワラントの意義、内容等について、特段説明されるということはなかった、原告X1は、ワラントが株の一種であると考え、本件日商岩井ワラント買付を承諾したと供述する。
しかし、本件ワラント買付注文の執行が同月一九日にされていることからすると、同月一八日午前中にワラント買付の注文があったとは考えられない。また、原告X1が同月一八日に金貯蓄の申し込みを行っていることも考慮すると、原告X1の供述は採用することができない。
二 原告X1主張の検討
1 適合性の原則及び説明義務違反について
右事実からすると、A5は、原告X1に対し、平成元年一二月一八日、電話で、ワラントの商品性について、株価と連動するが値動きが大きく、ハイリスクハイリターンであること、権利行使期限があり、それを過ぎると価値がなくなることなどを説明しており、ある程度の説明をしたことは認められる。
しかしながら、A5を初め被告担当者が本件取引以前にワラントの勧誘をした形跡がないこと、また原告X1がワラント取引を行った経験がなく、本件ワラント勧誘の際のやりとりのなかでも原告X1がワラントを認識していたような事情はないこと、取引経験としても、確かに昭和五七年以降証券取引を行っており、その中には外国証券等も含まれるが、ワラントの商品性を認識していたことを窺わせるものではないことからすると、A5から電話で本件ワラントの勧誘を受けた時点では、原告X1にはワラントの知識はなかったものと認められる。
また、説明の態様としても、電話でワラントの説明を行っており、その際事前にパンフレットなどを渡していたわけでもない。
以上のことからすると、A5は、ワラントの商品性について一応説明しているものの、値動きが大きく、権利行使期限を過ぎると価値がなくなるというリスクや、そのリスクが現実化する可能性について、原告X1に検討、判断させるものとしては十分なものではなく、A5には説明義務違反があったというべきである。
なお、原告X1が本件ワラントが値上がりした時点で値上がりを認識しつつ売却しなかった事実は認められるが、本件損害は本件ワラント買付時に生じているのであって、右事実は過失相殺で考慮される一事情とはなり得ても、右事実があるから因果関係がないということはできない。
2 原告X1の損害
原告X1は、本件ワラントを四一〇万二二八〇円で購入したところ、本件ワラントは権利行使期限を徒過して価値がなくなったのであるから、右金額の損害を被った。
3 過失相殺
もっとも、原告X1も、ワラント購入を勧誘された際、電話であるとはいえ、ワラントの商品性やその危険性について、一応の説明を受けたにもかかわらず、ワラントについて十分検討することなく、本件ワラントを購入したことが認められる。
したがって、原告X1にも、本件ワラント購入に際して、ワラントの商品性やその危険性について、十分に検討することなく、本件ワラントを購入した過失があるというべきである。
そして、原告X1の経歴、投資経験、A5が行ったワラント勧誘の態様、説明内容等、本件記録から認められる一切の事情を考慮すると、原告X1及びA5の過失割合は各五割と認められる。
4 弁護士費用
本件と相当因果関係のある弁護士費用は、二〇万円と認められる。
三 結論
したがって、原告X1の被告野村證券に対する請求は、二二五万一一四〇円及びこれに対する平成四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
第七原告X2、被告野村證券
(前提事実)
原告X2は、被告野村證券担当者A6の勧誘により、平成二年一二月一七日、東急百貨店ワラント(以下本項で「本件ワラント」という)一〇ワラントを、単価二四ポイント、代金一六一万二二〇〇円で購入した。
(原告X2の主張)
一 適合性の原則
原告X2は、昭和五五年に警備会社を退職した後は年金生活を送っている。最終学歴は台湾の旧制中学であり、高等教育を経てきたとは言い難い。原告X2は、在勤中から、投資信託を主として、比較的安全性の高い証券取引に投資してきた。原告X2は、株式取引は行っていない。原告が有している東芝、九電の各株式はいずれも相続により取得したものである。A6も、原告X2に株式を勧誘したことはない。
このような原告X2の投資経験からすると、原告X2にワラントを勧誘することは適合性の原則に反しているといわざるをえない。
二 説明義務違反
A6は、原告X2に対し、平成二年一二月一七日ころ、自宅に電話をかけて、「これまでの損を取り戻すにはワラントを買うのが手っ取り早いですよ。」と本件ワラントの勧誘をした。
その際、A6は、ワラントの商品構造やその危険性あるいは本件ワラントの権利行使価格、権利行使期限等を一切説明しなかった。
三 断定的判断の提供
A6は、原告X2に本件ワラントを勧誘する際、「損を取り戻す。」などと断定的判断を提供した。
四 虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A6は、原告X2にワラントを勧誘する際、虚偽あるいは誤解を生じさせる説明をした。
(被告野村證券の反論)
一 適合性の原則
原告X2は、昭和五一年以降、長期にわたる証券取引の経験を有していた。原告X2は本件ワラント取引当時六九歳で、七五歳以下という被告野村證券のワラント取引開始基準に適合していた。また、原告X2の預り資産は約六〇〇万円であり、一〇〇〇万円以上とされる被告野村證券の基準を満たしていないが、上司である営業課長の許可を受けている。なお、証券業協会が作成したモデル基準では、預り資産五〇〇万円以上となっている。
原告X2の本件ワラントの購入は、当時の預り資産約六〇〇万円のうち、約三割にすぎない金額を本件ワラント購入に振り向けたものである。
したがって、原告X2にワラントを勧誘したことが適合性の原則に反することはない。
二 説明義務について
A6は、原告X2が本件ワラントを買い付ける際、電話でワラントの商品性について説明した。
その後、被告野村證券は、原告X2に対し、ワラント取引説明書を送付し、原告X2は、ワラント取引確認書を被告野村證券に差し入れた。また、被告野村證券は、原告X2に本件ワラントの預り証を送付しているが、右預り証には、ワラントは権利行使期限を徒過すると無価値になることが記載されていた。さらに、被告野村證券は、原告X2に対し、「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」を送付したが、その裏面にはワラントの商品性について簡単な説明がされている。
したがって、被告野村證券は、原告X2に対し、ワラントについて必要かつ十分な説明を行っている。
三 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A6が、原告X2に本件ワラントを勧誘した際、損を取り戻すなどと断定的判断を提供したことはない。また、虚偽あるいは誤解を生じさせるような説明をしたこともない。
(当裁判所の判断)
一 事実経過
1 原告X2の社会的地位、投資経験
原告X2は、昭和二三年から○○石炭鉱業に勤務、昭和五〇年に退職後、五年間、警備会社に勤務し、その後年金生活を送っている。
原告X2は、昭和五一年、被告野村證券久留米支店に、保護預り口座設定申込書を提出、証券取引を開始した。被告との取引は、記録が残っている昭和五六年以降についてみると、中心は投資信託であるが、外国株式、国債、転換社債等の取引もあった。取引としては小口で、一〇〇万円を超える取引はほとんどなかった(甲イ一一〇一、一一〇三、乙イ一一〇一の1ないし4、一一〇二、一一〇三、一一〇六、一一一〇)。
2 本件取引の経緯
A6は、昭和六三年から久留米支店で勤務していた。そして、A6は、原告X2が昭和六三年一一月、投資信託(タンデムファンド八八一一)を新たに資金を出して購入した時点から、原告X2を担当するようになった。
A6は、平成二年一二月一七日午後、原告X2に電話をかけ、本件ワラントの買付を勧誘した。A6が原告X2にワラントの買付を勧誘したのは、平成元年一二月に日経平均株価が最高値を付けた後、平成二年一二月の段階では四割程度下落していたが、依然個人消費が堅調で、景気が良かったことから、株価が実態経済と乖離しており、今後株価の上昇が見込まれると予測したこと、そして株価が上昇する局面では、ワラントは株式を直接購入するよりも高い投資効率を有するためであった。また、ワラントのうち、本件ワラントを勧誘したのは、当時個人消費が伸びており、百貨店の株式の上昇が予測されたこと、本件ワラントが市場に出たばかりの新規債で、当時は新規債が非常に値上がりしている状況だったためである。
A6は、ワラントが新株引受権であること、新株の割当数、権利行使価格は予め決まっていること、権利行使期間があり、それを徒過すると無価値となること、価格は原則として株価に連動するが、値動きが大きく、ハイリスク、ハイリターンであることなどを説明した。権利行使価格、権利行使期限については、転換社債と対比する形で説明した。
原告X2は、本件ワラントを買い付けることにしたが、資金がなかったため、投資信託及び転換社債の売却代金を本件ワラント購入資金に充てた。なお、本件ワラント買付当時、原告X2の被告野村證券に対する預り資産は約六〇〇万円であったので、本件ワラントは、その約三割を充てたものであった(甲イ一一〇四、乙イ一一〇三、一一〇四、一一〇六、一一〇八、一一一〇、証人A6)。
3 本件取引後の経緯
原告X2は、平成二年一二月二一日、東芝ワラント三ワラントを買い付けた。
また、被告野村證券は、本件ワラントについて、平成三年二月から三か月毎に、その時価評価を記載した書面を送付した。
原告X2は、平成三年六月二〇日、東芝ワラント三ワラントを、単価一・五ポイント、代金三万〇八五九円で売却した。原告X2は、東芝ワラント取引で、一〇万二五二一円の損失を被った。
本件ワラントは、平成六年一二月一三日、権利行使期限を迎え、価値がなくなった(乙イ一一〇五の1ないし9、一一〇六、一一〇七、一一一〇、証人A6)。
4 原告X2供述について
原告X2は、A6から今までの損が多いから、東急ワラントに乗り換えた方が早いと本件ワラントを勧誘された、ワラントの商品性について説明されたことはないなどと供述するが、原告はワラント取引説明書の交付を受け、その結果ワラント取引に関する確認書を遅くとも平成三年一月四日までに被告野村證券に送付していること(乙イ一一〇四)、A6証言と対比して採用することができない。
二 原告X2主張の検討
1 適合性の原則及び説明義務違反について
右事実によると、A6は、原告X2に対して、本件ワラントを勧誘するに際し、ワラントの意義、内容、そのリスクについて、一応の説明をしたことは認められる。
しかしながら、原告X2は、ワラント取引を行ったことがなく、またその勧誘を受けたこともないのであるから、A6から本件ワラントの勧誘を受けた時点ではワラントの知識はなかったものと認められる。また、原告X2は、昭和五五年に退職後年金生活を送っており、被告野村證券での投資としても、一〇〇万円に満たない取引がほとんどであり、投資対象もほとんどが投資信託である。そうすると、ワラントのようなリスクの高い商品を勧誘するには慎重でなければならず、その危険性について十分に説明しなければならない。ところが、A6の説明は、電話によるものであり、その際、事前にワラントについて説明したパンフレット等も送付していない。そうだとすると、先に述べた、原告X2の経歴や投資経験、投資傾向とも照らし合わせると、右説明の程度では、原告X2が、ワラントが値動きが大きく、権利行使期限を過ぎると価値がなくなるリスクを有していることや、そのリスクが現実のものとなる可能性について、十分に理解できるものとはいえないというべきである。
したがって、A6の原告X2に対するワラント勧誘は、適合性の原則及び説明義務に違反するものといわざるをえない。
2 原告X2の損害
原告X2は、本件ワラントを一六一万二二〇〇円で購入したものの、その後権利行使期限を徒過、本件ワラントは価値がなくなったのであるから、右金額の損害を被った。
3 過失相殺
もっとも、A6は、原告X2に対して、電話によるとはいえ、ワラントの商品性について一応の説明を行っており、特にリスクの高い商品であることも説明していることが認められる。そうだとすると、原告X2も、ワラントがリスクの高い商品であることは認識できたのであるから、本件ワラント購入に際しては、その商品性や危険性についてさらに説明を求めるなど、十分に検討した上で、ワラントを買い付けることができたのであり、原告X2にも右十分な検討を怠った過失があるというべきである。
そして、原告X2の投資経験、社会的地位、A6の原告X2に対する本件ワラント勧誘の態様、その説明内容等本件記録から認められる一切の事情を考慮すると、原告X2及びA6の過失割合は各五割と認められる。
4 弁護士費用
・本件と相当因果関係のある弁護士費用は、一〇万円であると認められる。
三 結論
原告X2の被告野村證券に対する請求は、九〇万六一〇〇円及びこれに対する平成四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
第八原告X3、被告野村證券
(前提事実)
原告X3は、被告野村證券担当者A7の勧誘により、平成二年七月一七日、大京ワラント一〇ワラントを、単価一六・九五ポイント、代金一二六万二七七五円で、同月一八日、同A8の勧誘により、ダイセル化学工業ワラント一〇〇ワラントを、単価二六・五ポイント、代金一九六三万六五〇〇円でそれぞれ購入した。
(原告X3の主張)
一 適合性の原則違反
原告X3は、取引経験としては、取引先であった九州松下電器の株を増資の都度購入し、それを時々売却していた程度のものしか有していない。平成元年、被告野村證券と取引をするようになってから、株式投資を行うようになったが、すべて被告野村證券担当者の勧めで購入していたにすぎない。また、原告X3は、株式関係の新聞や雑誌を読むことなく、被告担当者の判断を頼りにしていた。このように、原告X3は、危険性の高い取引を行う適合性を有していなかった。
しかるに、A7及びA8は、危険性の高いワラント買付を勧誘した。
二 説明義務違反
A7及びA8は、原告X3に対し、ワラントの商品性、大京、ダイセル化学工業の本件各ワラントについて、何ら説明をしなかった。また、公正慣習規則では、事前にワラントについて説明し、その旨の確認書を徴求すべきものとされているが、A7及びA8は、ワラント取引以前に確認書を徴求しておらず、右規則に違反している。
三 断定的判断の提供
A7及びA8は、原告X3に、大京ワラントを勧誘する際、必ず儲かりますと断定的判断を提供した。
四 虚偽あるいは誤解を生じさせる行為
A7及びA8は、原告X3に、ワラントの商品性について、虚偽あるいは誤解を生じさせる説明をした。
(被告野村證券の反論)
一 適合性の原則について
原告X3は、昭和○年生まれ、○○金属工業株式会社(以下「○○金属工業」という。)の代表取締役であり、実質上のオーナーである。○○金属工業は、従業員数六五名、年商約八億二〇〇〇万円、九州松下電器など家電関係を主な取引先とし、平成元年当時は高額所得法人リストに掲載されていた。
原告X3は、被告野村證券と証券取引を始める前、三洋証券と取引を行っており、また日経新聞を古くから購読しており、会社四季報も必要に応じて読んでいた。
このような、原告X3の経歴、投資経験等からすると、ワラント勧誘が適合性の原則に違反することはない。
二 説明義務について
A7は、平成二年二月ころ、原告X3を○○金属工業に訪問し、九州松下電器ワラントを勧誘した。その際、A7は、ワラントの商品性について説明をした。
また、A7は、原告X3に大京ワラントを電話で勧誘した際、ワラントの商品性を再度説明した。さらに、大京ワラント買付直後、A8とA7は原告X3を訪問し、A8がワラントの商品性を説明した。その際、ワラント取引説明書を交付し、原告X3はワラント取引確認書を作成した。
そして、被告野村證券は原告X3に預り証を交付したが、これには権利行使期限の記載があり、さらに「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」を郵送したが、その裏面にはワラントの説明がされている。
三 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A7あるいはA8が、ワラントを勧誘する際、必ず儲かりますなどというような、断定的判断の提供をしたことはない。また、ワラントの商品性について虚偽あるいは誤解を生じさせる説明をしたこともない。
(当裁判所の判断)
一 事実経過
1 原告X3の社会的地位、投資経験
原告X3は、熊本県荒尾市に本社がある電器部品のプレスを業とする金属加工会社、○○金属工業の社長である。同社は、九州松下電器などを主な取引先としており、従業員約六五人、年間売上約八億二〇〇〇万円であった。
原告X3は、平成元年二月以降、三洋証券大牟田支店で、取引先の九州松下電器の株式取引を行っていた(甲イ一二〇一、乙イ一二一五の3、原告X3本人)。
2 本件取引に至る経緯
A7は、熊本支店に勤務していた平成元年二月、高額所得法人リストに掲載されていた○○金属工業に電話をかけ、社長である原告X3に三井銀行株式(公募株)を買い付けるよう勧誘した。その結果、原告X3は、同株式一〇〇〇株を買い付けた。翌日、A7は、原告X3を○○金属工業に訪問し、総合取引申込書兼保護預り口座設定申込書を提出してもらった。右取引が、原告X3が被告野村證券と行った最初のものであった。その際、A7は、原告X3から、原告X3が、九州松下電器株式を一〇〇〇万円を超える金額で取引しているということを聞いた。この時には、○○金属工業の経理担当の○○も同席した。
その後、原告X3は、本件取引に至るまで、被告野村證券と、エフピコ、富士銀行などの株式取引を行った。なお、松下通信工業株式七〇〇〇株(代金二〇二四万二四八一円)及び野村證券株式一万株(代金二三六六万四九二八円)の買付は、原告X3の申し出によるものだったが、その他の取引はA7が勧誘したものだった。
原告X3は、平成二年一月二九日、A7の勧誘により、青山商事株式を買い付けたが、その際、九州松下電器の株式購入の話が出た。A7は、当時市場が低調だったため、買付の機会であるという話をしたが、原告X3は、手持ち資金がないということであった。その時、A7は、九州松下電器がワラントを発行していたため、九州松下電器ワラントの買付を勧誘した。これは、ワラントが株取引よりも少ない資金で投資できるためであった。A7は、ワラントとは新株引受権であること、新株引受権とは、ある一定の価格で、ある一定の期間内に株を購入することができる権利であること、ワラント取引は新株引受権という権利自体を売買するものであること、ワラントの値動きは、株よりも二、三倍激しいこと、権利行使期限があり、それを過ぎると価値がなくなること、信用取引と異なり、追証が必要となることはないこと、為替の影響を受けること等を説明した。
その後もA7は、九州松下電器ワラントを勧誘したが、同ワラントが値上がりしたことから、勧誘を断念した。なお、勧誘に際して、A7は、九州松下電器ワラントの価格表(乙イ七と同様のもの)を示してその値動きを説明した。また、ワラントについて、不動産の手付けになぞらえて説明したこともあった(乙イ七、一二〇一、一二〇三、一二〇七、一二一〇、一二一三、一二一六、証人A7)。
3 本件ワラント取引の経緯
A7は、同年七月一七日、大京ワラントが新規発行されたため、原告X3に電話をかけ、大京ワラントの買付を勧誘した。この時、A7は、再度、ワラントは株よりも値動きが激しいこと、権利行使期限があり、それを過ぎると価値がなくなること、また大京ワラントについての権利行使価格、権利行使期限、大京の株価等を説明した。その結果、原告X3は、大京ワラント一〇ワラントを、代金一二六万二七七五円で買い付けた。
翌日、A7は、上司であったA8とともに、○○金属工業に、原告X3を訪問した。A7は、原告X3に、ワラント取引確認書、外国証券口座設定約諾書に署名押印してもらうとともに、ワラント取引説明書を交付した。その際、A8の方からも、ワラントについて、ハイリスクハイリターンであること、新株引受権という権利の売買であること、権利行使期限があり、それを徒過すると無価値となること、為替の影響を受けることの説明をした。
さらに、同月一九日朝、A7が原告X3に電話をかけ、相場の状況や大京ワラントの値動き等を説明していると、A8がA7に電話を代わるように指示した。A8は、ダイセル化学工業ワラントが、株価が権利行使価格を超え、期限も三年弱残っていたことから、有望であると考えていたため、原告X3に、ダイセル化学工業ワラントの買付を勧誘した。その結果、原告X3は、同ワラント一〇〇ワラントを、代金一九六三万六五〇〇円で買い付けた。
その後、A7が買付の結果を電話で報告した際、原告X3は、大京ワラントは額が小さいからしばらく持っていても良い、ダイセル化学工業ワラントの場合は、額が大きいから一割くらい利益が出たら売却するので、その時は連絡するように指示した。
なお、本件ワラント取引直前の、原告X3の預り資産は三四〇〇ないし三五〇〇万円程度であった(甲イ一二〇二、乙イ二の1ないし3、一二〇二、一二〇四、一二〇六、一二〇七、証人A7、同A8)。
4 本件取引後の経緯
大京ワラントは、平成六年七月一二日、ダイセル化学工業ワラントは、平成五年四月二七日、権利行使期限を迎え、いずれも価値がなくなった。
なお、被告野村證券は、「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」と題する書面を送付し、原告X3にワラントの時価評価を伝えていたが、原告X3から特に苦情はなかった(乙一二〇五の1ないし4、一二一一、一二一二)。
二 原告X3主張の検討
1 適合性の原則及び説明義務違反について
以上のように、原告X3は、年商が八億円を超える株式会社の代表取締役であり、日経新聞を古くから購読しているなど、経済状態にも明るいことが認められる。投資経験としても、平成元年以降被告野村證券と証券取引を行い、本件各ワラント取引以前に一〇〇〇万円を超える大口の取引を行っていたこと、本件ワラント取引直前の預り資産が三四〇〇ないし三五〇〇万円程度あったことからすると、原告X3にワラント取引を勧誘することが適合性の原則に違反するということはできない。
また、説明としても、A7は、平成二年一月下旬以降、九州松下電器ワラントを勧誘する中で、数回にわたって、ワラントの商品性、権利行使価格や権利行使期限の意義、値動きの特徴、その危険性等を説明しており、大京ワラントを勧誘する際にも、電話ではあるがワラントの商品性を再度説明している。そして、A7及びA8は、大京ワラント及びダイセル化学工業各ワラントの権利行使価格、権利行使期限等についても説明しているのであるから、その説明が不十分あるいは不適切であるということはできない。
2 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A7あるいはA8が、ワラントを勧誘する際、断定的判断を提供した、虚偽あるいは誤解を生じさせる説明をしたと認めるに足りる証拠はない。
三 結論
したがって、原告X3の被告野村證券に対する請求は理由がない。
第九原告X4、被告野村證券
(前提事実)
原告X4は、平成二年七月一三日、被告野村證券担当者A9の勧誘により、ベスト電器ワラント(以下、本項で「本件ワラント」という。)四九ワラントを、単価二八・五ポイント、代金一〇二八万八七一三円で購入した。
(原告X4の主張)
一 適合性の原則違反
原告X4は、昭和六〇年ころから証券取引を行っていたが、当初は被告野村證券担当者A10に取引を一任していた。本件ワラント買付以前の日本ビクターワラントの買付は、A10に一任していた時期であり、原告X4は、本件訴訟になるまで、買付の事実すら知らなかった。
このように、原告X4は、ワラントのような危険性の高い取引を行う適合性を有していなかった。
二 説明義務違反
A9は、本件ワラントを勧誘するに際して、ワラントの商品構造、権利行使価格、権利行使期限等について一切説明をしなかった。
三 断定的判断の提供
A9は、原告X4に、本件ワラントを勧誘する際、「絶対儲かります。」などといって、断定的判断を提供した。
四 虚偽あるいは誤解を生じさせる行為
A9は、原告X4に、ベスト電器は洋服の青山と合併するなどと虚偽の説明をした。
(被告野村證券の反論)
一 適合性の原則について
原告X4は、昭和○○年生まれ、昭和三二年から福岡県大川市で「X4木工家具」という商号で家具の製造販売業を営み、昭和六二年ころからは、家具部品加工を業とする有限会社△△の代表取締役社長として、同社の経営にあたっている。
原告X4は、昭和六〇年四月被告野村證券と証券取引を開始したが、その端緒は原告X4から積極的な注文を受けたことによる。また、原告X4は、昭和六一年六月には、前田証券とも証券取引を行うようになった。
このような、原告X4の経歴、投資経験等からすると、原告X4が、ワラント取引を行う適合性を有していないということはない。
二 説明義務について
被告野村證券は、原告X4が昭和六二年に日本ビクターワラントを購入した際、「ワラント取引のご案内」と題する書面を郵送した。
また、A9は、同年一二月、原告X4から保有中の日本ビクターワラントについて、現在価格、将来の見通しなどを質問されたので、その回答とあわせて、ワラントの商品性について説明した。A9は、平成二年七月ころ、ワラントの商品性について説明したうえでワラントを勧誘したが、この時には約定には至らなかった。
さらに、A9は、同年七月一三日、ベスト電器の株価チャートや外貨建ワラント価格表を持参して原告X4を訪問し、ベスト電器の業績、ベスト電器ワラントの条件等を説明し、その買付を勧誘した。その結果、原告X4は本件ベスト電器ワラントを買い付けたのである。
以上のように、A9は、本件ワラント買付に際して、ワラントの商品性等について説明した。
三 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A9は、原告X4に本件ワラントを勧誘する際、「絶対儲かります。」などと言ったことはない。
A9は、原告X4に、ワラントの商品性について、虚偽あるいは誤解を生じさせる説明をしたことはなく、ベスト電器と青山商事が合併するという話をしたこともない。
(当裁判所の判断)
一 事実経過
1 原告X4の社会的地位、投資経験
原告X4は、福岡県大川市で、家具の製造販売を業とするX4木工家具(個人経営)、家具の部品加工を業とする有限会社○○をそれぞれ経営している。従業員は、○○に八名いるが、X4木工家具は原告X4一人である。
原告X4は、昭和六〇年四月一日、被告野村證券佐賀支店で、東レ株式を買い付け、証券取引を開始した。右取引は、原告X4の注文によるものであり、被告担当者はA10であった。原告X4は、同月一一日、被告野村證券に保護預り口座設定約諾書を提出した。
原告X4は、昭和六一年六月、被告野村證券久留米支店でも取引を開始、一年ほど久留米支店で取引を行うとともに、前田証券大川支店でも証券取引を行うようになった。また、原告X4は、被告野村證券に対して、同年九月に総合取引申込書を、同年一一月に外国証券取引口座設定約諾書を提出した。
原告X4は、被告野村證券では、国内株式、投資信託、外国株式等の取引を、前田証券では株式取引を行った。
原告X4は、昭和六二年六月二六日、日本ビクターワラント二ワラントを、単価三〇・五ポイント、代金四四万九二六五円で購入した。そして、翌営業日、被告野村證券は、原告X4に対し、「ワラント取引のご案内」と題する書面を送付した。右書面には、ワラント証券の意義、ワラントの価格が株価と連動するが変動率が株よりも大きくなること、そのため少額の資金で大きな投資効果を上げることも可能である反面、値下がりも激しく、場合によっては投資金額の全額を失うことがあること、権利行使期間が終了すると新株引受権がなくなるので価値がなくなることなどが記載されている。また、被告野村證券は、同年七月六日、日本ビクターワラントの預り証を発行した(甲イ一三〇一、乙イ六、一三〇一の1、2、一三〇二の1、一三〇三、一三一一、一三一二の2、原告X4本人)。
2 本件ワラント取引の経緯
昭和六二年一一月、異動により、原告X4の担当が、A10からA9に交代した。A9が引き継いだ際、原告X4は、日本電信電話株、日本ビクターワラント、投資信託三銘柄を保有していた。
A9は、同年一二月ころ、原告X4から、保有していた日本ビクターワラントの時価について質問を受けた。A9は、半値近くまで下落していることを伝えるとともに、ワラントの商品性について説明をした。その内容は、ワラントとは新株引受権のことであり、権利を売買するものであること、新株引受権とは、一定の期間に一定の価格で一定数の株式を買い付けることができる権利であること、権利行使価格についても、新たな資金により、その価格で株式を買い付けることができるということ、権利行使期限があり、ワラントはそれを過ぎると価値がなくなること、株式と比較して価格変動が大きく、ハイリスクハイリターンであること、外貨建で為替の影響を受けること等を説明した。また、A9は、原告X4に、ワラント取引説明書を渡した。
原告X4は、昭和六三年九月一六日、日本ビクターワラントを、約半値の二三万〇九四八円で売却した。これは、A9が、原告X4に、同ワラントが利益を出す見通しがなかったため、同ワラントを売却して川崎製鉄株を購入することを勧めたためであった。
A9は、平成二年七月、相場も良くなってきたこと、ワラント取引も活発になってきたことから、原告X4にワラント取引を勧誘した。その時、A9は、ワラントの商品性について、株式よりも少ない資金で同様の投資効果をもたらすこと、ハイリスクハイリターンであること、権利行使期限や権利行使価格等をワラント価格表に基づいて説明した。
A9は、同月一三日、原告X4に対して、本件ワラントを勧誘した。その時に、A9は、本件ベスト電器ワラントの権利行使価格、権利行使期限等の説明をするとともに、ベスト電器の株価の見通しなども説明した。その結果、原告X4は、同月一三日、本件ワラント四九ワラントを、単価二八・五ポイント、代金一〇二八万八七一三円で買い付けた。
そして、被告野村證券は、同月一三日付のワラント取引に関する確認書を、同月一九日に受領した(乙イ一、一三〇三、一三〇四、一三〇六、一三〇八、一三一三、証人A9)。
3 原告X4供述について
これに対し、原告X4は、ワラントの商品性について説明を受けたことはないなどと供述するが、A9証言と矛盾するばかりか、ワラント取引に関する確認書に署名押印して被告野村證券に差し入れていること、本件ワラント取引以前に日本ビクターワラントの売買を行っていること、殊に同ワラントの売却は、A9が原告X4を担当している時期であるところ、原告X4自身、A9には取引を一任していないと供述していることからして、採用することができない。
二 原告X4主張の検討
1 適合性の原則及び説明義務違反について
以上の事実からすると、原告X4は、自ら事業を営むとともに、昭和六〇年から証券取引を行うようになり、その間株式を中心に証券取引を行ってきたこと、昭和六二年には日本ビクターワラントを買い付けており、翌昭和六三年九月に、同ワラントを、約半値で売却したことが認められる。
右のような原告X4の経歴、投資経験等からすると、原告X4に、ワラントを勧誘することが適合性の原則に違反するということはできない。
また、A9は、平成二年七月ころ、前任者のA10から引継を受けて原告X4を訪問した際、原告X4から日本ビクターワラントの時価を質問されて、ワラントの商品性、その危険性について説明したこと、さらに、本件ワラントを勧誘するに際しても、ワラントの商品性について再度説明するとともに、本件ワラントの権利行使価格、権利行使期限等を説明したことが認められる。
A9の説明内容、原告X4に、ワラント取引説明書等ワラントの商品性やその危険性を説明した書面が渡されていたこと、原告X4がワラント取引の経験を有していたことをあわせ考えると、A9のワラントについての説明が不十分あるいは不適切であるということはできない。
2 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A9が、原告X4にワラントを説明する際、絶対儲かるなどというような断定的判断を提供した事実あるいはベスト電器と青山商事が合併するというような虚偽の事実を告げたことを認めることができる証拠はない。その他、A9が右のような行為をしたと認めるに足りる証拠はない。
三 結論
したがって、原告X4の被告野村證券に対する請求は理由がない。
第一〇原告X6、同X7、被告野村證券
(前提事実)
原告X6は、被告野村證券担当者A11の勧誘により、平成元年二月八日、神戸製鋼所外貨建ワラント一〇〇ワラントを単価二六ポイント、代金一六八四万八〇〇〇円で、同年三月一日、新日本製鉄ワラント六〇ワラントを単価二七・五ポイント、代金一〇四九万四〇〇〇円で、同日日商岩井ワラント一一〇ワラントを単価二一・五ポイント、代金一五〇四万一四〇〇円で、同月一七日、熊谷組ワラント一五ワラントを単価八一ポイント、代金七九六万一二八七円でそれぞれ購入した。
原告X7は、A11の勧誘により、同年二月一七日、新日本製鉄外貨建ワラント二〇〇ワラントを単価二七ポイント、代金三四〇〇万六五〇〇円で、同年三月二四日、鹿島建設ワラント一〇〇ワラントを単価五八ポイント、代金三八一〇万六〇〇〇円で、同年五月二四日、三菱電機ワラント一〇〇ワラントを単価二三・五ポイント、代金一六八四万九五〇〇円でそれぞれ購入した。
(原告X6、同X7の主張)
一 適合性の原則違反
原告(原告代表者)X6は、昭和五四年、原告X7の代表取締役に就任してから、会社経営に専念しており、株式投資等証券取引に熱心に取り組んでいたのではない。
取引経験としても、国債、投資信託あるいは転換社債などに投資してきており、ワラント取引以外には投機的な取引はない。このように、原告(原告代表者)X6の投資態度は安全有利を旨としていた。また、自らの判断で証券取引を行うことはしておらず、専ら担当者の勧誘に委ねていた。さらに、投資資金は、金融機関からの借り入れであった。
このように、原告(原告代表者)X6は、ワラント取引を行う適合性を有していなかった。
二 説明義務違反
A11は、原告(原告代表者)X6に対し、ワラントの商品性やその危険性について一切説明しなかった。
三 断定的判断の提供
A11は、原告(原告代表者)X6に対し、ワラントを勧誘するに際し、必ず儲かるなどと断定的判断を提供した。また、原告(原告代表者)X6は、被告野村證券が利益保証するというので証券取引を行ったのである。
四 虚偽あるいは誤解を生じさせる行為
A11は、原告(原告代表者)X6に対し、ワラントの商品性について、虚偽あるいは誤解を生じさせる説明をした。
(被告野村證券の反論)
一 適合性の原則について
原告(原告代表者)X6は、昭和五〇年、○大学経済学部を卒業後、昭和五三年に原告X7に入社、昭和五四年、代表取締役に就任した。原告(原告代表者)X6は、経営に関する書籍を出版したり、経営者座談会に出席するなど、経営一般や企業経営に詳しかった。
投資経験としても、大和証券久留米支店で大口の取引を行い、日興證券久留米支店とも取引をしていた。また、日経新聞や会社四季報、投資顧問会社からのレポートなどを読んでおり、証券取引にも詳しかった。
このように、原告(原告代表者)X6は、経済、経営、証券取引の知識、経験が豊富であり、原告(原告代表者)X6に対するワラントの勧誘が、適合性の原則に違反することはない。
二 説明義務について
被告は、本件ワラント購入以前の他のワラント取引に際し、原告らに「ワラント取引のご案内」を送付している。
また、A12やA11は、原告らに対し、ワラントの商品性やその危険性を説明するとともに、ワラント取引説明書を交付した。そして、原告らはワラント取引確認書を差し入れている。
さらに、原告らは、A11がワラントのリスクを強調し、評価損となっているワラントと評価益が出ているワラントを一括して売却することを提案したにもかかわらず、自らの判断で売却しなかったのであるから、仮に説明義務違反があったとしても、原告らの損害との間に因果関係はない。
三 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A11は、原告らに対し、ワラント買い受けを勧誘するに際し、「絶対に儲かります。」などというような断定的判断を提供したことはない。また、利益保証をしたこともない。さらに、虚偽あるいは誤解を生じさせる説明をしたことはない。
(当裁判所の判断)
一 事実経過
原告(原告会社代表者)X6の社会的地位、投資経験
原告X6は、昭和○○年生まれ、○大学経済学部を卒業後、昭和五三年、父親が経営していた原告X7に入社、翌年、代表取締役に就任した。
原告X7は、久留米の地場工芸品藍胎漆器のメーカー最大手で、そのシエアは約七割である。また、平成元年から三年ころにかけては、筑邦銀行の株式の一パーセント程度を保有する株主でもあった。
原告(原告代表者)X6は、昭和五八年九月、被告野村證券に、原告X6名義で保護預り口座設定申込書を提出、資生堂の転換社債を買い付け、証券取引を開始した。また、原告X6名義で、同年一〇月一日付の外国証券取引口座設定約諾書も提出された。
もっとも、その後は数回証券取引を行っているのみで、昭和六〇年一〇月ころまでは、それほど証券取引を行っていない。
なお、原告(原告代表者)X6は、詳細は明らかでないが、大和証券でも証券取引を行っており、大口の取引が多く、その中にはワラントも含まれていた(甲イ二四〇一、乙イ二四〇一、二四〇二の1、2、二四〇三の1、二四一〇、二五〇八ないし二五一〇の各1、2、原告(原告代表者)X6)。
2 A12担当時の取引
被告野村證券従業員A12は、昭和六〇年四月に被告野村證券に入社、久留米支店に配属となった。そして、新規顧客の開拓を目的とした訪問外交をしていたところ、原告(原告代表者)X6と接触を持つようになった。その後、A12が何度か原告(原告代表者)X6を訪問したところ、同年一〇月になって、原告(原告代表者)X6は、原告X7名義で、保護預り口座設定申込書を提出、短期国債合計一億二〇〇〇万円を買い付け、原告X7名義での証券取引を開始した。
原告(原告代表者)X6がA12に営業特金をやってみたいと電話で連絡してきたので、A12は、A13課長と原告(原告代表者)X6を訪ねた。その際、原告X6から利回りを保証することを要求されたが、A13課長は、利回りを保証することはできない、営業特金も五億円以上でないとできないと断った。すると、原告X6は、普通の証券取引でかまわないので、二億円ほどの余裕資金を被告野村證券で運用したいと申し出たので、その後、A12が原告X6に推奨する銘柄を勧誘するかたちで、証券取引を行った。
原告(原告代表者)X6は、昭和六一年一月三一日、A12の勧誘により、原告X6名義で神戸製鋼所ワラントを買い付けた。その際、A12は、ワラントの商品性やその危険性について、原告(原告代表者)X6に説明した。その内容は、新株引受権という権利の売買であって、値動きが非常に激しいこと、ハイリスクハイリターンであること、期限があり、それを過ぎると価値がなくなる等というものであった。そして、被告野村證券は、原告(原告代表者)X6に、「ワラント取引のご案内」と題する案内を送付した。右案内には、ワラント証券の意義、ワラントの価格が株価と連動するが変動率が株よりも大きくなること、そのため少額の資金で大きな投資効果を上げることも可能である反面、値下がりも激しく、場合によっては投資金額の全額を失うことがあること、権利行使期間が終了すると新株引受権がなくなるので価値がなくなることなどが記載されている。
その後、原告(原告代表者)X6は、原告X6名義で、昭和六一年四月、ロームワラントを、同年七月ユニーワラントを、原告X7名義では、同年二月、味の素ワラントを、同年三月東急電鉄、住友不動産各ワラントをそれぞれ買い付けた。
しかし、その後、証券取引で損失が出たときに、原告(原告代表者)X6から被告野村證券に苦情が出始め、さらに原告(原告代表者)X6が新規公開株の要求などをしてきたため、A12は、A13課長の助言もあり、原告らとの取引継続は妥当でないと判断、以後勧誘をやめた。そして、原告(原告代表者)X6は、被告野村證券に預けていた証券を徐々に引き出していった(乙イ六、二四〇三の1、二四〇八、二五〇三の1、証人A12)。
3 A11担当時の取引
A12が、昭和六二年一一月、異動となり、原告らの担当が、A11に変更となった。そして、A12とA11は、原告(原告代表者)X6に対して担当交代の挨拶をしたが、原告(原告代表者)X6からは取引を再開してよいという話はなかった。
その後、原告(原告代表者)X6は、昭和六三年一一月ころ、A11に電話をかけ、支店長や営業課長も代わったことから、取引再開を考えてもよいという話をした。そして、A11は、原告(原告代表者)X6を訪問したが、その際、原告(原告代表者)X6は、大和証券が利益保証していることを伝えた上で、被告野村證券も利益保証するのであれば被告野村證券とも取引をしたいと言った。これに対し、A11は、被告野村證券では利益保証はできないが、相場環境も良いので、原告(原告代表者)X6に喜んでもらえると思うと返事をした。
なお、A11は、原告(原告代表者)X6との会話の中で、原告(原告代表者)X6は大和証券で大口の取引を行っていること、投資顧問会社からも情報を得ているという印象を受けた。
A11は、昭和六三年一一月ころ、原告(原告代表者)X6に、公社債、転換社債及びワラントを組み合わせて運用する投資信託(ボンドアルファ)を勧誘した。A11は、右商品は八割を公社債に組み入れて、二割を限度としてワラント及び転換社債を組み入れた投資信託であること、ワラントについてはハイリスクハイリターンであり、場合によっては価値がなくなることもあるが、公社債と組み合わせて安全性も確保しているところがこの商品の特徴であると説明した。その結果、原告(原告代表者)X6は、同月二五日、ボンドアルファを二〇〇〇万円購入した。
さらに、A11は、同年一二月ころ、原告(原告代表者)X6に対し、ワラントを勧誘した。A11は、ワラント取引説明書(乙イ八)を示しながら、ワラントとは新株引受権であり、新株引受権とは予め決められた一定の価格で株を購入することができる権利であること、値動きが激しいこと、権利行使期限があり、それを過ぎると価値がなくなること、信用取引と対比すると、買付代金以上のリスクを負うことはないという利点があること、外貨建なので為替の影響を受けることなどを説明した。その結果、原告(原告代表者)X6は、同月二六日、花王ワラントを代金一〇七六万八三一二円で買い付けた。
ワラント取引に関する確認書は、原告X7名義のものは昭和六四年一月四日付で、原告X6名義のものは平成元年二月八日付でそれぞれ提出された。
以後、原告(原告代表者)X6は、原告X6名義で七銘柄、原告X7名義で九銘柄のワラント取引を行った(乙イ八、二四〇三の2、二四〇四、二四〇九、二四一二、二五〇三の2、二五〇四、証人A11)。
4 原告(原告代表者)X6供述について
これに対し、原告(原告代表者)X6は、ワラントについての説明は受けていない、被告野村證券が利益保証をしたから取引を行っていたなどと供述する。しかし、利益保証に関しては、A11はこれを否定する証言をしているところ、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、ワラントの説明についても、A12及びA11の各証言等と矛盾するばかりか、ワラント取引説明書等ワラントの商品性を説明した書類の交付を受けながら、何ら苦情等を言っていないことからして、採用することができない。
二 原告ら主張の検討
1 適合性の原則及び説明義務違反について
原告(原告代表者)X6は、先に認定したとおり、○大学経済学部を卒業後、昭和五四年から原告X7の代表取締役をしており、経済誌の座談会に参加したり、事業継承についての本を出版するなど、経済に明るいことが認められる。また、投資経験としても、被告野村證券を始め、大和証券等で大口かつ頻繁に取引を行っており、豊富であるばかりか、その中にはワラント取引も含まれているなど、投資傾向としても安全性を旨とするものではない。
このような、原告(原告代表者)X6の社会的地位、投資経験、投資傾向等からすると、原告(原告代表者)X6にワラントを勧誘することが適合性の原則に違反するということはできない。
また、A12及びA11は、先に認定したとおり、ワラントの商品性について、パンフレット等を示しながら、ワラントの意義、値動きの特徴、その危険性等について説明しているばかりか、その後作成されたワラント取引説明書等のワラントの商品性を説明した書類も渡しており、原告(原告代表者)X6の社会的地位や投資経験等に照らすと、その説明が不十分あるいは不適切であるということはできない。
2 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A12あるいはA11が、原告(原告代表者)X6に対して、断定的判断を提供した、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為をしたと認めるに足りる証拠はない。また、前述したように、利益保証をしたとは認められない。
三 したがって、原告X6及び同X7の被告野村證券に対する請求はいずれも理由がない。
第一一原告X5、被告大和証券
(前提事実)
原告X5は、被告大和証券担当者A6の勧誘により、平成元年一一月二二日、住友商事ワラントを代金二五九万八三〇〇円で、同月二九日、トーメンワラントを代金九三万四五九五円で、同年一二月五日、日通ワラントを代金八八〇万二三〇〇円で、同月一四日に三井物産ワラントを代金九四〇万〇九五〇円で、平成三年七月九日、三協アルミワラントを代金一〇七万九五七五円でそれぞれ購入した。
(原告X5の主張)
一 適合性原則違反
原告X5は、クロロキン薬害により目が悪くなり、クロロキン網膜症により、平成元年九月の視力検査では、右目は五センチメートルの指数弁(視力判定不能)、左目は手動弁ということで、事実上失明状態であった。
原告X5は、昭和六二年に、勤務していた○○を退職、以後、退職金、薬害の補償金及び失明したことによる保険金等で生計を立てていた。
このように、原告X5は、目が不自由で無職であることや投資資金が老後の生活費であること、手堅い運用を考えて転換社債を中心に運用してきたという投資経験等に鑑みると、原告X5にワラントというリスクの高い商品を勧誘すること自体が違法である。
二 説明義務違反
A6は、平成元年一一月二二日、住友商事ワラントを勧誘したが、その際、電話でしかワラントの説明をしておらず、またワラントの商品性の特質である権利行使価格については説明していないなど、その説明は不十分なものであった。
また、A6は、平成二年三月、原告X5からワラントの権利行使の方法について質問された際、権利行使価格からワラント価格を控除したものを払い込めばよいと誤った説明をした。このように、A6のワラントについての理解は不十分不適切であり、A6がワラントの商品性について正確な説明ができるとは考えられない。
三 断定的判断の提供
A6は、原告X5に、ワラントについて、必ず儲かるなどといって勧誘した。
四 虚偽あるいは誤解を生じさせる行為
A6は、原告X5に、ワラントの商品性について、権利行使方法について誤った説明をするなど、虚偽あるいは誤解を生じさせる説明をした。
(被告大和証券の反論)
一 適合性の原則について
原告X5と被告大和証券との取引開始の端緒は、原告X5が被告大和証券熊本支店に電話をかけてきたことによる。その動機は、他の証券会社の情報提供等に不満があること、新規発行の商品を紹介してほしいということであった。その直後には、原告X5の方から、新規の転換社債をさらに紹介してくれるなら、株式投資信託を買っても良いという条件提示を行っている。その後も、新規発行の転換社債等を次々と買い付けている。このように、原告X5は、他社と取引があったところ、他社に不満があったため被告大和証券と取引をするようになったのであり、利益率の高い新規発行の商品を求めるなど、積極的な投資意欲を有し、豊富な投資経験を有していた。
また、原告X5は、仮名の妻A14名義の口座も含めると、平成元年一一月末現在で、株式、転換社債等総額一五〇〇万円以上の預り資産を有していた上、賃貸マンションを所有しているとも言っていた。
右のような、原告X5の態度、投資経過、資金力に照らすと、適合性の原則は十分充足している。
二 説明義務について
A6は、原告X5が他の証券会社でもワラント取引の経験があったことから、原告X5はワラントの商品性を理解していると考えたが、念のため、確認書に基づいて、ワラントには権利行使期限があり、それを過ぎると価値がなくなること、株式以上に値動きが激しいことなどを説明した。原告X5の投資経験等に照らし合わせると、右程度の説明で十分である。
なお、A6が、権利行使の方法について、ワラント価格を控除したものを払い込めばいいと誤った説明をしたことはあるが、そもそも原告X5は権利行使するためにワラントを購入したのではないから、右説明の誤りと原告X5の被った損害とは因果関係がない。
三 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A6が、原告X5に、ワラントを勧誘する際、断定的判断を提供したことはない。また、虚偽あるいは誤解を生じさせるような説明をしたこともない。
(当裁判所の判断)
一 事実経過
1 原告X5の社会的地位、投資経験
原告X5は、クロロキン薬害のため、視力が低下、昭和六二年三月、勤務先である○○を退職した。原告X5は、昭和六三年ころには、失明した。退職後は、職に就くことはなかった。
原告X5は、昭和五三年ころから、勤務先の持株会で株式取引をするようになり、退職後、三洋証券、野村證券などで、株式、投資信託等の証券取引を行っていた。また、資産としては、福岡市内にワンルームマンションを所有していた(甲ハ一八〇一ないし一八〇四、原告X5)。
2 本件取引に至る経緯
原告X5は、平成元年九月、被告大和証券熊本支店に電話をかけ、被告社員A6に、被告大和証券で取引をしたいと申し出た。原告X5は、A6に対し、他社と証券取引を行っているが不満があり、被告大和証券は大手でもあるので、被告大和証券と取引をしたい、新規上場の株式や新規発行される転換社債があれば紹介してほしいという話をした。その際、原告X5は、他社の株式投資信託の商品名を挙げて、運用成績が良く、評判が良いというような話もした。その時、A6は、三井不動産の転換社債を勧めた。その結果、原告X5は、A6が同月二九日に原告X5宅を訪問した際、原告X5の妻A14名義で総合取引申込書に署名押印するとともに、三井不動産転換社債を三〇〇万円で購入した。原告X5は、その時に、A6に対して、新規発行の転換社債をさらに紹介するならば、株式投資信託ステップを一〇〇〇万円購入してもよいという話もした。また、同年一〇月一七日付で、原告X5名義の総合取引申込書が被告大和証券に提出された。
その後、本件住友商事ワラント購入に至るまでの間、A14名義の口座では、同年一一月一四日、大和証券の公募新株一〇〇〇株を二二八万八〇〇〇円で購入、その後同月二一日、先の三井不動産転換社債を三五五万二五〇七円で売却して五五万二五〇七円の利益を出し、原告名義の口座では、同年一〇月一三日、松下電器産業の新規発行の転換社債一〇〇万円、同月一九日、住友鉱山転換社債一〇〇万円、同月二〇日、日本鉱業の新規発行の転換社債一〇〇万円、同月二三日、肥後銀行株八〇〇〇株を代金九六〇万六四一七円で、同年一一月一六日には大和証券株一〇〇〇株を代金二二八万八〇〇〇円で、それぞれ購入、同年一〇月二五日には松下電器産業転換社債を、同年一一月一日には日本工業転換社債を売却して、それぞれ五万〇四一九円、八万二〇六九円の利益を上げた。
そして、原告X5は、平成元年一〇月、新日本証券大牟田支店で、立石電器ワラント一〇〇ワラントを購入した(甲ハ一八一〇、乙ハ一八〇一、一八〇二、一八〇五の1ないし3、一八〇六、一八〇七の各1、一八〇八の1、2、一八〇九、証人A6、原告X5)。
3 本件ワラント取引の経緯
A6は、平成元年一一月二二日、原告X5に電話をかけ、本件住友商事ワラントを勧誘した。これは、数日前、原告X5から、ワラントを含め、新規上場直後のものが非常に値上がりする状況であったため、新規発行のものを紹介してほしいと要望があったためであった。そこで、A6は、商社関係の株価が動いている状況であったため、本件住友商事ワラントを勧誘した。この時、A6は、ワラントは値動きが激しい商品であること、権利行使期限を徒過すると価値がなくなることを説明した。原告X5は、先に述べたとおり、この時既にワラントの取引経験があり、ワラントという言葉は知っていた。その結果、原告X5は、同日、本件住友商事ワラントを購入した。そして、原告X5は、同日付で、外国証券取引口座設定約諾書及びワラント取引に関する確認書に署名押印した(右確認書の受領日は、同月二七日となっている。)。右確認書は、「分離型ワラント」と題する小冊子と一体となっており、それを切り離したものである。右小冊子は、ワラントの商品性を説明したものである。
その後、原告X5は、前述したように、本件トーメン、日通、三井物産、三協アルミ各ワラントを購入した。原告X5は、本件各ワラントの他にも、平成三年四月には横河電機、住友工事、同年一一月にはサンウェーブ、平成四年四月には南海電気各ワラントを購入し、それぞれ一七万九九四三円、四万二三六三円、五万九四四五円、一〇万〇〇〇九円の利益を上げている。
A6は、平成二年に入り、株価が大きく値下がりしていたので、ワラントの商品性について、原告X5に再度説明した。その際、A6は、ワラントの権利行使方法について、権利行使価格からワラント代金を控除した金額を払い込むと誤った説明をしてしまった。
A6は、その後、右説明の誤りに気付き、原告X5にもう一度正しい説明をした。そして、A6は、誤った説明をしたことの穴埋めとして、同年八月二四日、新規公開株のフタタ株式一〇〇〇株を原告X5に紹介、A14名義の口座で購入してもらった(甲ハ一八〇五ないし一八〇九、乙ハ一八〇三、一八〇四、一八〇五の1、一八〇六の1ないし9、一八〇七、一八〇八の各2、一八一〇、証人A6、原告X5)。
4 原告X5供述について
これに対し、原告X5は、A14名義の口座を開設したのは原告名義のみだと新規発行の転換社債を案内しにくいこと、平成元年九月二九日に住友商事ワラントを勧誘されたときには、単に儲けが大きい程度の説明しか受けていない、住友商事については、ソ連大統領訪日の関係で商社は石油で大幅に値上がりするといわれたためである、その次にA6が来訪したのは同年一〇月三一日であり、その時にはA15が同席していた、その次は平成二年四月一七日であり、その際にワラントの権利行使方法について誤った説明を受けた、平成三年八月ころ、原告X5が権利行使しようとしたところ、A6が右説明の誤りに気付いた、A6は右説明の誤りを認め、その後利益を出すために努力したなどと供述する。
しかし、右供述内容は、証人A6の証言内容と矛盾するばかりか、以前に原告名義の取引口座が設定されていないことからすると、A6が原告X5に家族名義の口座の設定を勧めるとは考えられないこと、平成元年一〇月三一日にA6が原告X5宅を訪問したという点も、同席していたというA15の取引経過(乙ハ一八一一の1、2)と合致していないことや原告の取引経過等からすると、採用することができない。
二 原告X5主張の検討
1 適合性の原則及び説明義務違反について
原告X5は、前述したように、無職であり、年齢や目が悪いことからすると今後も就労することは期待できない状態であったことが認められる。そうだとすると、原告X5にワラントを勧誘すること自体が適合性の原則に反すると考えられなくもない。
しかし、原告X5は、昭和五三年ころから株式取引を行い、退職後も他の証券会社で取引を行っており、原告X5と被告大和証券との取引の端緒は原告X5が被告大和証券熊本支店に電話をかけてきたこと、その理由も他の証券会社のサービスに不満を持ったためであった。また、原告X5は、当時利益を確保しやすかった新規発行の商品を紹介するように要求していること、被告大和証券でも転換社債、株式等の取引を行っており、本件住友商事ワラント取引の直前には、新日本証券でワラントを購入していた。さらに、本件ワラント購入当時、被告大和証券に一五〇〇万円以上の預り資産を有していた。
このような、原告X5の投資経験、投資態度からすると、少なくとも原告X5が安全志向であったとはいえず、原告X5にワラントを勧誘すること自体が違法であるということはできない。
しかしながら、A6は、原告X5がワラント取引の経験を有していたこともあって、値動きが激しいことや権利行使期限を過ぎると価値がなくなることなど、ワラントの危険性については説明しているものの、ワラントがどのような商品なのかについては、あまり説明していない。また、A6が、平成二年初めころ、ワラントの権利行使方法について誤った説明をしたことはA6が自認するところであり、そうすると、A6は、本件住友商事ワラントを勧誘する際、権利行使の方法すなわち権利行使価格の意義について十分に説明しなかったこととなる。
ワラントは、株価と権利行使価格との差あるいはその見通しが価値を決める重要な要因となるのであるから、権利行使価格について十分な説明をしなかった場合には、その勧誘が違法となるというべきである。
なお、原告X5は、本件住友商事ワラント購入前に、新日本証券でワラント取引を行っているのであるから、ワラントの商品性について理解していたのではないかとも考えられるが、原告X5が権利行使方法についてのA6の誤った説明を信用していたことはA6も自認していることからすると、本件住友商事ワラント買付時に、ワラントの商品性やその危険性を十分理解していたとは認められない。
以上のとおりであるから、A6の原告X5に対するワラント勧誘は、ワラントの商品性やその危険性を十分に説明しなかった違法があるというべきである。
2 損害
先に述べたように、原告X5は、本件各ワラント取引で、合計二二八一万五七二〇円の損失を被った。
3 損益相殺
他方、原告X5は、前述したように、他のワラント取引で、合計三八万一七六〇円の利益を上げている。右ワラント取引による利益は、A6が勧誘したワラント取引による利益であるから、損益相殺の対象となる。したがって、右金額を損害額から控除すべきである。
4 過失相殺について
もっとも、原告X5も、昭和五三年以降証券取引を行っており、ある程度の投資経験を有しており、投資傾向としても必ずしも安全志向とは言い難いこと、本件住友商事ワラント取引直前には新日本証券でワラント取引を行っており、本件住友商事ワラント買付の際にもワラントの名前程度は知っていたことを自認していること、A6は原告X5に対して、ワラントは値動きが激しく、権利行使期限を過ぎると価値がなくなることなど、その危険性について一応説明をしていることからすると、ワラントの商品性やその危険性を十分に検討することなく、ワラントを買い付けた落ち度があるものといわざるをえない。特にワラント取引の経験があることからすると、検討をする機会も十分にあったはずである。
そうすると、原告X5にも、ワラントの商品性やその危険性について、十分に検討することなく、ワラントを購入した過失があるというべきである。
そして、原告X5の社会的地位、投資経験、殊にワラント取引の経験があったこと、A6の説明内容やその態様等を考慮すると、A6の過失割合が三割、原告X5の過失割合が七割と認められる。
5 弁護士費用
本件と相当因果関係のある弁護士費用は、六五万円と認められる。
三 結論
したがって、原告X5の被告大和証券に対する請求は、七三八万〇一八八円及びこれに対する平成四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
第一二原告X13、同X14、被告大和証券関係
(前提事実)
原告X13は、被告大和証券担当者A16の勧誘により、平成元年八月三日、ダイセルワラントを単価二三・七ポイント、代金七三一万三五二三円で、同年一二月二七日、日産ディーゼルワラントを単価三五ポイント、代金一二四万七三一二円で、平成二年四月一七日、ダイセルワラントを一一・五ポイント、代金九二万一四三七円で、同年七月二日、ダイワワラントを一二ポイント、代金五四九万五四〇〇円で、同年八月七日、住友商事ワラントを一四ポイント、代金五二万九五五〇円で、同月二一日、東芝ワラントを単価一三・二五ポイント、代金九七万二五五〇円で、平成三年五月一日、I・H・Iワラントを三・五ポイント、代金二三万九七一五円でそれぞれ購入した。
また、原告X14は、平成二年七月三一日、積水ハウスワラントを単価一五・六ポイント、代金七八万円で購入した。
(原告X13、同X14の主張)
一 適合性の原則違反
原告(原告代表者)X13は、ワラントのような危険性の高い取引の経験はなかった。また、証券会社と取引していたのは、少しでも運用益が出ればいいと思っていたからであって、できるだけリスクの少ない取引を希望していた。さらに、取引はほとんど電話でなされ、被告大和証券担当者の勧誘にしたがって、原告(原告代表者)X13が売買するというものであった。このように、原告(原告代表者)X13は、自ら資料収集をして取引を行うということはなかった。
しかるに、A16は原告(原告代表者)X13に、危険性の高いワラントを勧誘した。
二 説明義務違反
A16は、原告(原告代表者)X13に対し、ワラントの商品性について、割安な条件で株を入手できる、転換社債のプレミアム部分のようなものという程度の説明しかしていない。
このように、A16は、ワラントの商品性を十分に説明しなかった。
三 虚偽あるいは誤解を生ぜしめるべき行為
A16は、原告(原告代表者)X13に、ワラントの商品性について、虚偽あるいは誤解を生じさせる説明をした。
四 断定的判断の提供
A16は、原告(原告代表者)X13に、ワラントを勧誘する際、「絶対儲かる。」「損はしない。」などと、断定的判断を提供した。
(被告大和証券の反論)
一 適合性の原則について
原告(原告代表者)X13は、被告大和証券と取引をする以前には和光証券と証券取引を行っており、証券取引に関する知識があった上、被告大和証券との取引についても、原告X13については二〇〇〇万円を超える買付、原告X14についても五〇〇〇万円を超える買付があり、取引が大口である上、取引回数も頻繁であった。
また、原告(原告代表者)X13は、株式会社の社長として証券取引をしている人物なのであって、ワラント取引の適合性を備えていることは明らかである。
二 説明義務について
A16は、X13に対しワラントを説明する際、転換社債と対比して商品構造を説明し、ワラント取引は、新株引受権の売買で、ハイリスク、ハイリターンであることを説明した。また、大同特殊鋼ワラントを現実に権利行使する過程で、権利行使についても詳細な説明をしている。
特に、原告(原告代表者)X13は、合計で七〇回に及ぶワラント取引があり、すべて個別に売買の注文をしているのであるから、その過程でワラントの理解も深化していったはずである。権利行使期限が過ぎると価値がなくなることも十分に説明した。
三 虚偽表示等、断定的判断の提供について
A16が、X13に対し、ワラントを勧誘するに際し、ワラントの商品性について虚偽あるいは誤解を生じさせる説明をしたり、断定的判断を提供した事実はない。
四 過失相殺、損益相殺
仮に、A16の勧誘に違法な点があったとしても、原告(原告代表者)X13の過失に損失発生の主原因があるから、原告(原告代表者)X13の過失割合を相殺すべきである。また、原告(原告代表者)X13は他のワラント取引では利益を上げているのであるから、その利益は当然損益相殺すべきである。
(当裁判所の判断)
一 事実経過
1 原告(原告代表者)X13の投資経験、社会的地位
原告(原告代表者)X13は、昭和○年生まれ、中学校卒業後、木工職人として稼働、昭和三二年に独立して、昭和四六年に○○株式会社を設立した。原告X14は、従業員約四六名を有しており、売上高が六ないし七億円程度の会社である。
原告(原告代表者)X13は、日経新聞を購読していた。また、被告大和証券から送付されてくる投資新聞、会社四季報にも目を通していた。
原告(原告代表者)X13は、被告大和証券と取引をする以前には、和光証券で証券取引を行ったことがあった。和光証券では、株式取引を行っていた(甲ハ四一〇一、四二〇三、四二〇四、原告兼原告代表者X13)。
2 本件ワラント取引に至る経緯
被告大和証券久留米支店では、昭和六二年ころ、新規発行の転換社債をダイレクトメールで案内していた。原告(原告代表者)X13はダイレクトメールに返事を出し、同年三月二六日、イトマンの転換社債を一〇〇万円で購入、それを端緒に、被告大和証券と取引が始まった。原告(原告代表者)X13は、昭和六二年二月に原告X13名義で、同年四月に原告X14名義で、それぞれ同支店に取引口座を開設した。
以降、原告(原告代表者)X13は、頻繁に、転換社債、株式及び外国証券等の取引を行っている。
A16は、昭和六二年六月一六日、原告(原告代表者)X13に、電話で、住友商事ワラント購入を勧誘した。この時、A16は、ワラントとは新株引受権のことであること、ワラントは株式以上にハイリスクハイリターンであること、ワラントを転換社債になぞらえて、ワラントは債券の部分を取り除いたものであるというような説明をした。この時には、権利行使期限についての話はしなかった。原告(原告代表者)X13は、同日、住友商事ワラントを四八〇万四八〇〇円で購入した。
原告(原告代表者)X13は、平成元年二月二二日、大同特殊鋼ワラントを購入、即日権利行使して、結局七〇万五一九五円の利益を上げた。この時、A16は、権利行使価格について、ワラントの買付、権利行使時にそれぞれ払込代金が必要となることを説明した。また、権利行使期限があり、それを過ぎると価値がなくなることも説明した。その後も、A16は、権利行使期限や権利行使価格のことを、原告(原告代表者)X13に説明したことがあった。
原告(原告代表者)X13は、原告X13名義で、昭和六二年四月三〇日付で外国証券取引口座設定約諾書を、平成元年六月二〇日付でワラント取引に関する確認書、平成二年八月九日付でワラント取引確認書に署名押印して、被告大和証券に差し入れた。また、原告X14名義で、昭和六二年六月一六日外国証券取引口座設定約諾書、平成元年二月一日付及び平成二年九月七日付でワラント取引確認書に、それぞれ署名押印して、被告大和証券に差し入れた(乙ハ四一〇一の1ないし40、四一〇二ないし四一〇六、四二〇一の1ないし41、四二〇二ないし四二〇五)。
3 本件ワラント取引の経緯
原告(原告代表者)X13は、先に述べた本件各ワラント取引を行った。これらのワラントは、いずれも権利行使期限を徒過し、価値がなくなった。
4 原告(原告代表者)X13供述について
これに対し、原告(原告代表者)X13は、ワラントについて説明を受けたことがない、テレビを見て、資料を取り寄せて初めてワラントの価値がほとんどなくなっていることに気付いたなどと供述するが、そもそも原告(原告代表者)X13が被告大和証券と取り引きするようになったのは原告(原告代表者)X13が転換社債のダイレクトメールに応募したものであること、取引についても、A16から電話で連絡を受け、その結果取引をしていたことは原告(原告代表者)X13自身が認めていること、ワラントについて実際に権利行使をし、さらに多数回にわたりワラント取引を行っていること、投機性が高い低ポイントのワラントを買い付けていることからすると、ワラントの商品性を理解していたというべきであり、採用することができない。
二 原告X13、X14主張の検討
1 適合性の原則及び説明義務違反について
以上認定したとおり、原告(原告代表者)X13は、株式会社の経営者であり、日経新聞を購読、被告大和証券から送付されてくる投資新聞や会社四季報も読んでいた。また、取引経験としても、被告大和証券と取引をする以前に和光証券で株式取引の経験があり、被告大和証券との取引でも、株式、投資信託、外国証券と幅広く、危険性の高い信用取引も行っている。
また、A16は、原告(原告代表者)X13に対し、最初にワラントを勧誘する際、ワラントの商品性について、新株引受権の売買であること、ハイリスクハイリターンであることを説明し、さらに、権利行使価格についても、平成二年二月、大同特殊鋼ワラントを現実に権利行使する際に説明しており、権利行使期限があり、それを過ぎると価値がなくなることも説明している。ワラントの商品性やその危険性について説明したワラント取引説明書等の書類も交付している。
さらに、原告(原告代表者)X13は、合計七〇回にわたってワラント取引を行っており、ポイントが著しく下がった時期においても、ポイントの上昇率が大きいことからワラント取引を行っている。
このような、原告の経歴、投資経験、投資傾向等からすると、原告(原告代表者)X13にワラントを勧誘することが適合性の原則に違反するとは認められず、また、原告(原告代表者)X13の経歴、投資経験等からすると、A16の説明は、ワラントの商品性を説明するものとして不十分なものとは認められない。
2 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A16が、原告(原告代表者)X13に対し、ワラントを勧誘するに際して、断定的判断を提供した、虚偽あるいは誤解を生じさせる説明をしたと認めるに足りる証拠はない。
三 結論
以上のとおりであるから、原告X13及び同X14の請求はいずれも理由がない。
第一三原告X10、被告国際証券関係
(前提事実)
原告X10は、平成二年七月一七日、被告国際証券担当者A17の勧誘により、五洋建設ワラント(以下、本項で「本件ワラント」という。)を、代金六〇八万〇二五〇円で買い付けた。
(原告X10の主張)
一 適合性の原則違反
原告X10は、昭和六〇年ころから、主に三洋証券で証券取引を行っていたが、それは、原告X10が経営する会社(○○○)が三洋証券の制服を作っていた関係で取引をしていたに過ぎず、その取引内容も、担当者から勧誘を受けたものを、少しずつ売買していたに過ぎない。このような投資傾向は、被告国際証券での取引でも同様であった。したがって、原告X10は、証券取引の知識、経験が豊富というわけではなかった。
しかるに、A17は、原告X10に、危険性の高いワラントの買付を勧誘した。
二 虚偽表示、誤解を生じさせる行為
A17は、原告X10にワラントを勧誘する際、ワラントが売り出し前の株の一種であるかのような説明をした。
三 断定的判断の提供
A17は、原告X10にワラントを勧誘する際、「絶対儲かる。」「損はしない。」などと、断定的判断の提供をした。
四 説明義務違反
A17は、原告X10に対し、ワラントの商品性やその危険性について、一切説明しなかった。単に、「いいのがあるからあなたに勧めます。市場に出る前の段階のものです。」としか言っていない。
(被告国際証券の反論)
一 適合性の原則について
原告X10は、従業員七〇ないし八〇名を有し、年商約七億円の株式会社○○○の経営者であり、年収は、本人、妻ともに一〇〇〇万円を超え、個人資産として、マンション、ゴルフ会員権を有するなど、資産家である。日経新聞のみならず株式新聞等の専門誌、東洋経済等の経済雑誌を購読し、社会経済にも極めて明るい投資家である。
また、原告X10は、昭和三四年ころ、山叶証券で株式取引を開始、その後、野村、大和、山一、三洋、A20の各証券で、株式中心の証券取引を行っていた。
さらに、原告X10は、証券会社の営業担当者が提供する情報のみに頼らず、自ら雑誌、新聞及び会社四季報を参考に投資決定を行っており、自己の判断で投資を行っていた。
このように、原告X10は、投資経験、判断力、理解力、資力いずれの面においても、本件ワラント取引を行うのに適していた。したがって、適合性の原則に違反することはない。
二 説明義務について
A17は、平成二年五月ころから、ワラントの勧誘を行ったが、その際、小冊子(「ワラント取引のあらまし」)を利用しながらワラントの商品性を説明した。ワラントの意義、値動きの特徴、権利行使期間や権利行使価格、権利行使期限を過ぎると価値がなくなることなどを説明した。また、本件ワラントを勧誘する際には、右のことに加えて、本件ワラントの権利行使価格、権利行使期限、株価やその見通しなどを説明した。
三 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A17が、ワラントを勧誘する際、断定的判断を提供したことはなく、虚偽あるいは誤解を生じさせるような説明を行ったこともない。
(当裁判所の判断)
一 事実経過
原告X10の社会的地位、投資経験等
原告X10は、平成二年当時、従業員約七〇名、年間売上高約七億円の株式会社○○○の社長をしていた。原告X10は、昭和三四年以降、山叶証券等で株式中心の証券取引を行っていた。また、資産としても、○○○の敷地、ゴルフ会員権、マンションを所有していた。さらに、日経新聞、株式新聞、東洋経済等の経済雑誌を購読していた(甲ロ二三〇一、原告X10)。
2 原告X10と被告国際証券との取引の端緒
A17は、昭和六三年六月ころ、企業リストをもとに電話で営業活動を行っていたが、その中に、原告X10も含まれていた。原告X10は、当初、他の証券会社で取引を行っていることを理由に、被告国際証券との取引を躊躇した。その後、A17が、電話で、新規発行のトヨタ自動車転換社債を勧誘したところ、原告X10は、右転換社債一〇〇万円分を買い付け、被告国際証券とも取引を行うようになった。
その後、A17は、原告X10に、電話あるいは訪問して、債券あるいは投資信託を勧誘したが、原告X10は、銀行預金と同じあるいは自分の判断で投資できないことを理由に、債券あるいは投資信託には投資せず、もっぱら株式を中心とした取引を行うようになった。原告X10は、被告国際証券以外の証券会社でも証券取引を行っていたため、数百万円単位で取引をしていた。
しかし、A17が、平成二年三月に、立会外分売のため時価よりも安く、手数料も不要であることを説明して、キーエンス株式の購入を電話で勧誘したところ、原告X10は、右株式を一二三〇万円で買い付けた(乙ロ二三〇一、二三〇二、二三一二、証人A17、原告X10)。
3 本件ワラント取引の経緯
A17は、平成二年五月ころ、原告X10に、電話でワラントを勧誘した。A17がワラントを勧誘した理由は、原告X10が会社経営者であること、株式中心の取引を行っており、同年二月にはキーエンス株を一二三〇万円で購入したこと、当時株価が値を下げており、ワラント価格も割安となっていたためであった。A17は、ワラントを説明するとともに、その価格について、値動きが大きいが、株価が一割上昇するとワラント価格は三割上昇するなどと説明した。原告X10がワラントに興味を示したため、A17は、電話をしてから一、二週間後、○○○を訪問、ワラントについて説明をした。その際、A17は、「ワラントのあらまし」という冊子を持参して、ワラントの商品性について、権利行使期限や権利行使価格、為替の影響を受けることを説明した。また、ワラントは、株と比較すると価格変動が大きいこと、権利行使期間内に売却しないと価値がなくなること、権利行使期間は三年程度あることも説明した。その際には、二、三銘柄の株価の状況、ワラント価格の見通しなども説明した。なお、右冊子には、ワラント価格の特徴として、株価と比較すると価格の変動率が大きく、場合によっては投資金額の全額を失うこともあること、権利行使期間が終了するとその価値を失うこと、権利行使期間内に、ワラントを売却するか、新株引受権を行使するかしなければならないこと、権利行使をするためには追加の払込みが必要となること、外貨建ワラントの場合には為替リスクがあること等が記載されている。なお、この日以降も、A17は、合計七、八銘柄のワラントを勧誘したが、買付までには至らなかった。
A17は、同年七月一七日午後六時ないし七時ころ、原告X10に電話をかけ、本件ワラントを勧誘した。この時、A17は、五洋建設の株価が一二〇〇円程度であること、同株価が平成元年三月に一七七〇円を付けて以降、大体一二〇〇円ないし一六〇〇円の間を推移していたこと、権利行使期間が三年四か月くらい残っていることからすると、権利行使価格が一五四八円を十分に上回る可能性があることを説明した。その結果、原告X10は、本件ワラントの購入を承諾した。翌一八日、A17は、原告X10を訪問、外国口座設定約諾書、ワラントの取引確認書に署名捺印してもらった。その際、A17は、本件ワラントの権利行使価格、権利行使期間、相場の見通しなどをもう一度説明した。そして、A17は、本件ワラントのポイントについては、日経新聞にも掲載されていないことから、A17の方から随時連絡することを伝えた。
その後、被告国際証券は、同月二六日付でワラント預り証及び計算書並びにワラント取引のご案内という書類を送付した(甲ロ二三〇二ないし二三〇四、乙ロ二三〇一ないし二三〇九、二三一二、二三一五、証人A17)。
4 その後の経緯
A17は、本件ワラントについて、平成三年後半までは、権利行使期間が残っていたことから、もう少し様子を見ることを勧めていたが、その後は、売却するか、権利行使期間が長い他のワラントに乗り換えることを勧めた。しかし、原告X10は、それを拒絶した。結局、本件ワラントは、平成五年一一月一六日、権利行使期限を迎え、価値がなくなった。なお、原告X10は、平成二年一〇月、被告国際証券から、入庫していた株券をすべて引き出した。なお、原告X10は、被告国際証券に、平成四年五月七日及び同年一一月六日、残高照会通知書のとおり相違ない旨の回答書を送付した(乙ロ二三〇二、二三一〇、二三一一、二三一二、証人A17)。
二 原告X10主張の検討
1 適合性の原則及び説明義務違反について
以上の事実によれば、原告X10は、会社経営者で、経済新聞、雑誌等を日常的に購読するなど、経済に明るく、その経歴からすると、ワラントの商品性を理解する上で特に支障はないものと認められる。
取引経験としても、株式中心の取引を行っているばかりか、投資信託や債券を敬遠するなど、なるべく自らが判断できる利益率の高い商品を求める傾向があったものと認められる。
また、原告X10は、A17からワラントの勧誘を受ける前に、既に新聞等でワラントについての記事を読み、値動きが大きく、ハイリスクハイリターンであることを認識していた。
さらに、A17は、原告X10に、平成二年五月以降、ワラントの商品性について、ワラントの意義、値動きの特徴、権利行使価格や権利行使期限の意義、権利行使期限を過ぎると価値がなくなることなどを、小冊子を利用して説明した。
右のような、原告X10の経歴や投資経験、投資傾向等からすると、A17の説明により原告X10はワラントの商品性を十分に理解できたはずである。
したがって、原告X10にワラントを勧誘したことが適合性の原則に違反するあるいはワラントの商品性について説明義務違反があったとは認められない。
2 虚偽あるいは誤解を生じさせる行為、断定的判断の提供
先に認定した事実からは、被告国際証券が、原告X10に対して、断定的判断を提供したあるいは虚偽あるいは誤解を生じさせる行為をしたとは認められない。
三 結論
よって、原告X10の被告国際証券に対する請求は理由がない。
第一四原告X8、被告日興證券
(前提事実)
原告X8の父A18(以下「A18」という。)は、原告X8名義の口座で、被告日興證券担当者A19の勧誘により、平成元年一二月一二日、トーメンワラント〇八を単価二七ポイント、代金五八七万二五〇〇円で、同月一九日に日本ハムワラント二三を単価二六ポイント、代金一八七万二〇〇〇円で買い付けた。
(原告X8の主張)
一 当事者について
原告X8は、A18に対して、証券取引について委任していた。A18は、原告X8名義での取引を、原告X8の代理人として行っていた。
二 適合性の原則違反
A18は、○○合名会社の代表者である。
A18は、昭和四六年、父が死亡して同会社を引き継いだ際、父名義の株式を相続した。そのため、A18は、株式を引き続き運用していくこととなったが、特に証券取引に詳しくもなかったので、証券会社に一任するようになった。連絡は主に電話でなされ、取引も事後報告であった。A18が、具体的な売買の指示をしたことはない。
A18は、本件各ワラント取引当時も、取引をほとんどA19に任せていた。
このように、A18は、証券会社が取り扱う商品については、ほとんど知らなかった。
しかるに、A19は、A18に対して、危険性の高いワラントを勧誘した。
三 説明義務違反
A19は、A18に対し、ワラントの商品性やその危険性について、値動きが激しいこと、利益が大きいことなどの説明しかしなかった。
四 虚偽表示、誤解を生じさせる行為
A19は、A18にワラントを勧誘する際、「社債」「償還期日」などと、ワラントの性質を誤解させるような語句を使用した。
五 断定的判断の提供
A19は、A18にワラントを勧誘する際、「絶対儲かる。」「損はしない。」などと、断定的判断の提供をした。
(被告日興證券の反論)
一 当事者について
原告名義の口座については、A18が実質的所有者である。原告名義の口座は、原告が九歳になる直前に開設されているが、右口座を開設したのはA18である。原告X8は、昭和六三年から福岡県宗像郡<以下省略>、平成二年からは福岡県糟屋郡<以下省略>に住所を有しており、訴状記載の住所地には居住しておらず、A18が居住している。また、原告とA18名義の口座との間で、株式、現金振替も行われている。
二 説明義務について
A19は、A18に対し、昭和六三年四月二七日の富士通ワラント二三の買付時に、電話で、ワラントは株と比較して三倍程度値動きが大きいこと、株式よりも資金効率が良いこと、三年ないし五年程度の権利行使期限があり、それを過ぎると価値がなくなることを説明した。また、その後、A18の自宅を訪問して、ワラントの商品性について、小冊子を用いて詳しく説明した。さらに、A18は、同年五月九日、ワラント取引に関する確認書に署名押印して、被告日興證券に差し入れた。
このように、被告日興證券は、A18に対し、ワラントの商品性について十分に説明した。
三 適合性の原則について
A18は、○○合名会社の代表社員で、昭和六二年以降、福岡家庭裁判所○○支部で調停委員もしていた。被告日興證券久留米支店では、昭和三四年以降証券取引を行っており、その取引内容も、頻繁かつ高額で、そのほとんどが信用取引である。また、外貨建の商品や相対取引の経験も有している。
右のような、A18の社会的地位、投資経験からすると、A18にワラント取引を勧誘することが適合性の原則に違反することはない。
四 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A19が、A18に対し、ワラントを勧誘する際、断定的判断を提供したり、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為をしたことはない。
(当裁判所の判断)
一 事実経過
1 A18の社会的地位、投資経験等
A18は、大正一四年生まれ、昭和二一年○○○大学専門学校商学部を卒業した後、昭和二三年○生命福岡支社に入社、昭和二五年にa合名会社(以下「a社」という。)代表社員に就任、現在に至っている。a社は、常勤労働者三名、季節労働者が五名ほどいる会社である。
A18は、昭和三九年、被告日興證券久留米支店に、原告及びA18名義の口座を開設、以後証券取引を行っていた。原告及びA18名義の口座では、主に信用取引が行われ、取引回数も極めて多い。昭和五七年から平成三年までの取引をみても、そのほとんどは信用取引である。A18は、昭和六〇年九月二六日付で、被告日興證券に外国証券取引口座設定約諾書を差し入れている(甲ニ二〇〇一、乙ニ二〇〇一ないし二〇〇四、二〇〇六ないし二〇一一、二〇一九、二〇二八の1ないし4、二〇二九、証人A18、証人A19)。
2 ワラント取引の経緯
A19は、昭和六〇年一一月に被告日興證券久留米支店に配属となり、昭和六一年二月から平成二年八月まで、A18の担当であった。なお、原告X8名義の口座もA18が管理しており、A19は原告と会ったことはなかった。
A19は、昭和六三年四月二七日、A18に電話をかけ、富士通ワラント二三を勧誘した。A19がワラントを勧誘したのは、株式市場が活況を呈しており、ワラント取引自体も増えていたためであった。A19は、A18に対し、ワラントが新株を引き受ける権利であること、権利行使期限があり、それを過ぎると、ワラントは溶けてなくなること(価値がなくなるという意味である。)、富士通は将来性があるので値上がりが期待できること、富士通ワラントの権利行使価格と現在の株価を話した。その結果、A18は、ダイイチ株を売却して資金を捻出した上で、富士通ワラント二三を買い付けることとした(代金三二五万五九九〇円)。A19は、同日、本社に富士通ワラントの価格を確認したところ、値上がりして一〇万円弱の利益が見込めたので、A18にもう一度電話をかけて売却を勧めた。その結果、A18は、同日、同富士通ワラントを売却し、その結果八万九七〇七円の利益を上げた。
A19は、同年五月九日、A18宅を訪問、ダーバンワラント一二を勧誘した。その際、A19は、「外貨建ワラント、その魅力とポイント」と題する小冊子(乙ニ二〇一二)を持参、右小冊子を使用してワラントの商品性を再度説明した。A19は、右小冊子に沿って、ワラントとは新株引受権のことであること、権利行使価格が定められており、株価が権利行使価格を上回るかどうかでワラントの価値は大きく変わること、ワラントには権利行使期限があり、その期限が来ると価値がゼロとなり、その期限が近づくと取引量も少なくなること等であった。A19は、同日、A18からワラント取引に関する確認書に署名捺印してもらった。また、A19は、この時、ダーバンワラントの権利行使価格や権利行使期限、現在の株価等を説明して同ワラントの買付を勧誘した。その結果、A18は、同ワラントを代金二八八万六九一二円で買い付けた。
その後、A18は、熊谷組、全日空、三菱商事ワラントを買い付けた。A19は、この際には、ワラントの商品性についての説明はしなかったが、各銘柄の権利行使価格、権利行使期限、現在の株価やその見通し等を説明した。
なお、A18は、平成元年五月から一二月までワラント取引をしていないが、これは、A18が、ワラントはハイリスクハイリターンであるので新たな資金を出してワラントに投資するのはやめようと判断したこと及びワラントの乗り換えについても損がでている状況で乗り換えづらかったためであった。
そして、前述したように、平成元年一二月に、本件トーメンワラント〇八及び本件日本ハムワラント二三を買い付けた。なお、原告名義の外国証券取引口座設定約諾書は平成元年四月一二日付で、A18名義のそれは、昭和六〇年九月二六日付で、被告日興證券に差し入れられている(乙ニ二〇〇八、二〇一〇ないし二〇一六、二〇一九、証人A19)。
3 A18証言の検討
これに対し、証人A18は、ワラントについては儲けが大きい程度の説明しか受けていないなどと証言する。
しかし、先に認定したとおり、A18は豊富な投資経験を有しており、経歴からしても証券取引には危険が伴うことを理解していたことが窺えること、A18はワラントの商品性を説明した小冊子を受領した上でワラント取引に関する確認書に署名押印していることからするとA18証言は採用できない。
二 原告X8主張の検討
1 適合性の原則及び説明義務違反について
以上のように、A18は、○○大学専門学校商学部を卒業後、長年にわたり酒造会社を経営しており、経済状況に明るかったものと認められる。ワラント取引当時は、家庭裁判所の調停委員でもあった。
また、被告日興證券とも、昭和三九年に取引口座を開設して以降、頻繁に取引を行っており、その大半は、危険性が高い信用取引である。株式取引の中には、A18の注文によるものもあり、証券取引には相当の知識を有していたものと認められる。
このように、A18の社会的地位や取引経験からすると、A18にワラントを勧誘することが適合性の原則に違反するとは認められない。
さらに、先に認定したとおり、A19は、A18に対して、富士通のワラントを勧誘する際、電話でその商品性の説明を行うとともに、ダーバンのワラントを勧誘する際には、ワラントの商品性や危険性が記載されている小冊子をもとに、その商品性(その意義、値動きの特徴、権利行使価格や権利行使期限の意味等)を説明、ワラント取引説明書も交付した上で、ワラント取引確認書に署名押印してもらっている。
右説明内容に、A18の社会的地位、投資経験を照らし合わせると、A19がA18に対して行ったワラントの説明が不十分あるいは不適切なものであったとは認められない。
2 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
以上の事実からすると、A19がA18に対して、ワラントを勧誘する際、断定的判断を提供した事実は認められない。また、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為をしたとも認められない。
三 結論
したがって、原告X8の被告日興證券に対する請求は理由がない。
第一五原告X9、被告日興證券
(前提事実)
原告X9は、被告日興證券担当者A20の勧誘により、平成元年二月二三日、新日鉄ワラント五二を単価二九ポイント、代金五五一万五八〇〇円で、同年四月一〇日、十条製紙ワラント六二を単価二一・五ポイント、代金五一一万八三八五円で、同年一〇月二〇日、東亜建設ワラント六六を単価二五・五ポイント、代金一八一万六八七五円で、同年一一月一七日、京浜急行ワラント六二を単価三二・五ポイント、代金二三五万一三七五円で、同月二八日、三菱地所ワラント一三を単価二三ポイント、代金一六五万四八五〇円で、同年一二月六日、トーメンワラント〇八を単価二五・九ポイント、代金七四四万三六六〇円で、平成二年二月一日、日本航空ワラント二一を単価二七ポイント、代金一九五万七五〇〇円で、それぞれ購入した。
(原告X9の主張)
一 適合性の原則違反
原告X9は、大正一五年生まれ、昭和一九年ころから国鉄に看護婦として勤務していたが、昭和五六年に退職、以後無職である。このように、原告X9は、職業柄特に証券取引に詳しいということはなかった。
原告X9は、国鉄勤務時代は、安全性が高く、利回りも良かった国債に投資していただけである。昭和六二年ころ、NTT株を購入したことがきっかけとなって、退職金を使って株式投資を行うようになった。
そして、A20が自認するように、決して理解が早いほうではなかった。
このように、原告X9は、危険性が高いワラント取引を行う適合性を有していなかったにもかかわらず、A20は、原告X9にワラントを勧誘した。
二 説明義務違反
A20は、原告X9に対し、ワラントの商品性について、株の三倍儲かるもので、その分リスクも大きいという程度の説明しかしていない。そのため、原告X9は、ワラントが価値がなくなるまで保有し続けたのである。
このように、被告日興證券は、原告X9に対し、ワラントの商品性やその危険性について、十分な説明をしなかった。
三 虚偽表示、誤解を生じさせる行為
被告担当者は、原告X9にワラントを勧誘する際、「社債」「償還期日」などと、ワラントの性質を誤解させるような語句を使用した。
四 断定的判断の提供
被告担当者は、原告X9にワラントを勧誘する際、「絶対儲かる。」「損はしない。」などと、断定的判断の提供をした。
(被告日興證券の反論)
一 適合性の原則について
原告X9は、長年にわたって会社勤めをしており、自らの判断で証券取引ができる能力を有している。
また、原告X9は、昭和六二年から株式取引を行い、NTT株や、値動きが激しい株式取引も行っている。また、外国株式の取引も行っており、相対取引の経験もある。
このように、原告X9は、豊富な取引経験を有しており、適合性の原則に違反することはない。
二 説明義務について
A20は、昭和六二年七月二一日山之内製薬ワラント五一の買付に際して、原告X9に対し、ワラントとは例えていうなら転換社債の転換権だけを売買する取引であること、少ない資金で多くの投資効率を上げうること、権利行使期限があり、それを過ぎると権利が消滅すること、為替の影響を受けることなどを説明した。
また、A20は、昭和六三年三月、ワラントの小冊子(「外貨建ワラント、その魅力とポイント」)を用いて、再度ワラントの商品性を説明した。そして、原告X9は、同年一〇月二〇日及び一二月一八日付で、ワラント取引確認書に署名押印して、被告日興證券に差し入れている。
さらに、各ワラント取引においては、各銘柄の権利行使価格、権利行使期限等を告げ、十分な商品説明を行っている。
このように、被告日興證券は、ワラントの商品性やその危険性を十分に説明している。
三 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
被告担当者が、原告X9に、断定的判断を提供したり、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為をしたことはない。
(当裁判所の判断)
一 事実経過
1 原告X9の社会的地位、投資経験
原告X9は、昭和五六年まで国鉄に勤務、退職した後は年金生活を送っていた。なお、原告の夫A21も、昭和六〇年に国鉄を退職し、以後年金生活を送っている。
原告X9は、昭和六二年、大和証券及び野村證券でNTT株式を購入した。これが、原告X9が株式投資を行う端緒となった。原告X9は、昭和六三年一〇月二〇日、大和証券を通して、日本証券金融から八〇〇万円を借り受け、これをNTT株に投資した。
原告X9は、同年五月八日、被告日興證券久留米支店に同人名義で口座を開設、同年六月一〇日には次男A22名義の口座を開設した。なお、原告X9が、A22名義の口座も管理していた。原告X9は、株式中心の取引を、多数回行っている(甲ニ二一〇一、乙ニ二一〇一ないし二一〇五、二一一五、二一一六、二一一八、二一二〇、二一二三、証人A20、原告X9)。
2 山之内製薬ワラント取引
被告担当者A20は、昭和六二年七月二一日、原告X9に電話をかけ、ワラントを勧誘した。この時、A20は、ワラントについて、転換社債と対比して、転換社債の転換権だけを売買するようなものであること、権利だけの売買となるので、少ない資金で大きな投資効率を上げることができること、ワラントは権利であるから期限があり、満期とともに権利が消滅してしまうこと、為替の影響を受けること、ワラント価格は株よりも値動きが大きいことなどを説明した。その上で、A20は、山之内製薬ワラントの権利行使期限、権利行使価格、山之内製薬の株価の見通し等を説明した。その結果、原告X9は、同日、山之内製薬ワラントを代金二二五万三八〇〇円で買い付けた。原告X9は、同ワラントを、同月二九日に売却して、五三万七六三八円の利益を上げた。
その後、A20は、原告X9が来店した際に、「外貨建ワラント、その魅力とポイント」と題する小冊子を使って、ワラントの商品性を説明した。右小冊子には、ワラントの意義、ワラント投資がハイリスクハイリターンであること、行使期限の過ぎたワラントは価値がゼロとなること等が記載されている。A20は、右冊子を使って、ワラントとは株を決められた値段で買うことができる権利であること、権利行使をする期限があり、その期限を迎えると価値はなくなること、値動きが大きく、ハイリスクハイリターンであること等を説明した(乙ニ二一〇三、二一〇七、二一一〇、二一一六、二一一八、二一二〇、証人A20)。
3 富士通ワラントの取引
そして、原告X9は、昭和六三年四月二六日、A20の勧誘により、富士通ワラントを買い付け、同年五月二日、同ワラントを売却した。また、原告X9は、同年六月一七日、日興證券ワラント〇一を額面二〇万ポンド分購入したが、その後の価格が思わしくなかったので、同年七月一八日、額面七万ポンド分を売却した。同月六日、ベスト電器ワラントを購入したが、これも価格が下落したので、同年一〇月二二日、約半値で売却、同日住友不動産ワラントを買い付けた。この時、ベスト電器の株価は一〇〇円下落しただけであったが、ワラント価格は約半値となっていた。
なお、原告X9は、同年一〇月二四日付でA23名義、同年一二月一八日付で原告名義の、各ワラント取引確認書に署名押印して、被告日興證券に差し入れた。
このほか、原告X9は、A20が担当していた時期、日本硝子、旭硝子、三菱重工、日本郵船、大同特殊鋼、熊谷組、住友金属、三菱電線、本件新日鉄、住友不動産、青木建設、全日空、本件十条製紙、トピー工業、三菱金属、ニコンの各ワラント取引を行った。
なお、A20は、原告X9と、ほぼ毎日電話等で連絡を取っていた(乙ニ二一〇三、二一〇五、二一一六、二一一八、二一二〇、二一二一、証人A20)。
4 三菱金属ワラントの取引等
平成元年一〇月、原告X9の担当がA20からA24に変わった。A24は、A20から引継を受けた際、X9に電話をかけ、株式やワラントの保有状況を確認するとともに、ワラントについては、その権利行使価格、権利行使期限を確認した。また、ワラントについて、ハイリスクハイリターンであり、期限が来ると価値はなくなることを説明した。原告X9は、平成二年七月までの間に、三菱金属、本件東亜建設、東武鉄道、大同特殊工業、東洋紡、ニチメン、トピー工業、本件京浜急行、本件三菱地所、本件トーメン、ニコン、阪和工業、本件日本航空、NKKの各ワラント取引を行った。このうち、トーメンは、A24が勧誘したものではなかった。また、原告X9はこの間株式投資も行っているが、その中には、値動きが荒い銘柄(日本火災、東急、サンリオ、コスモ石油、鳥居薬品)も含まれていた。さらに、原告X9は、同年四月二六日、ジャパンOTCファンドという外国株を買い付けているが、これは、原告X9が店頭株の買付を希望したものの、売買単位が高く、店頭株を買うことができなかったため、A24が、店頭株に投資している同社の株式を買うことを勧めたためであった。
A24も、ワラントの個別銘柄を勧誘する際には、その権利行使価格、権利行使期限を伝えていた。なお、原告X9は、平成元年一〇月に一〇〇〇万円、同年一一月に四〇万円、平成二年九月に三〇万一七四八円を、口座から出金している(乙ニ二一〇三、二一〇五、二一一八、二一二〇、二一二一、二一二四、証人A24)。
二 原告X9主張の検討
1 適合性の原則について
原告X9は、昭和五六年、国鉄を退職した後は、就労していないことが認められる。
しかしながら、原告X9は昭和六二年NTT株を購入、同年五月、被告日興證券久留米支店に口座を開設して以降、頻繁に証券取引を行っている。また、昭和六三年一〇月には、八〇〇万円を借り入れて、NTT株に投資している。このように、投資傾向としても、株式取引を中心としたものであるばかりか、信用取引等危険性の高い取引も行っており、少なくとも安全志向とは言い難い。現に、原告X9は、本件各ワラント取引を行う前、ワラントが値動きの激しいことを経験しているのである。
説明の内容としても、A20は、原告X9にワラントを勧誘する際、電話で説明するとともに、その後小冊子を使用してワラントの商品性を説明していること、ワラントの商品性について、ワラントとは新株引受権であること、新株引受権とは権利行使価格が予め決められており、その価格で株式を買うことができる権利であること、値動きが激しく、権利行使期限が来ると価値がなくなること等を説明しているのであるから、その説明に、特に不十分な点は見出せない。
したがって、原告X9が、それほど理解が早くなかった事実を前提としても、原告X9にワラントを勧誘することが適合性の原則に違反するあるいは原告X9に対するワラントの商品性の説明について説明義務違反があるとは認められない。
2 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
以上の事実からすると、A20、A24その他被告日興證券担当者が、原告X9に対し、ワラントを勧誘する際、断定的判断を提供したり、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為をしたとは認められない。
三 結論
したがって、原告X9の被告日興證券に対する請求は理由がない。
第一六原告X11、被告日興證券
(前提事実)
原告X11は、昭和六二年八月五日、被告担当者A25の勧誘により、キリンビールワラント一一(以下、本項で「本件ワラント」という。)を単価二六・五ポイント、代金二〇一万四〇〇〇円で買い付けた。
(原告X11の主張)
一 適合性の原則違反
原告X11は、昭和五六年ころから新聞販売店を経営している。取り扱っている新聞が西日本及び日経新聞であるため、日経新聞に目を通すことはあったが、投資専門誌は購読していない。
また、原告X11の取引はほとんど株式で、信用取引等の経験はない。
このように、原告X11は、危険性の高いワラント取引を行う適合性を有していなかったにもかかわらず、A25は、原告X11にワラントの買付を勧誘した。
二 説明義務違反
原告X11は、被告日興證券に、ワラント取引に関する確認書に署名押印して差し入れたことはなく、ワラントの勧誘に際して使用される小冊子の交付も受けていない。A25は、原告X11に、ワラントを勧誘する際、ワラントが株に換えられること、株よりも儲かること程度の話しかしていない。
このように、A25は、原告X11に対し、ワラントの商品性やその危険性について十分な説明をしなかった。
三 虚偽表示、誤解を生じさせる行為
A25は、原告X11にワラントを勧誘する際、「社債」「償還期日」などと、ワラントの性質を誤解させるような語句を使用した。
四 断定的判断の提供
A25は、原告X11にワラントを勧誘する際、「絶対儲かる。」「損はしない。」などと、断定的判断の提供をした。
(被告日興證券の反論)
一 適合性の原則について
原告X11は、昭和五六年から新聞販売業を営むとともに、昭和五九年三月、被告日興證券久留米支店に口座を開設、以降株式を中心とした証券取引を行ってきた。特に、原告X11は、日経新聞や会社四季報を購読して株式の情報を得て、自ら銘柄を選択して証券取引を行ってきた。また、外国株式の取引経験もあり、為替レートにより影響を受けることは理解できるはずである。
したがって、原告X11にワラントを勧誘することは適合性の原則に反するものではない。
二 説明義務について
A25は、原告X11にワラントを勧誘する際、その商品性やリスクを説明しており、原告X11の取引経験と照らし合わせると、その説明は十分なものである。
三 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
A25が、原告X11にワラントを勧誘する際、断定的判断を提供したり、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為をしたことはない。
(当裁判所の判断)
一 事実経過
1 原告X11の社会的地位、投資経験
原告X11は、昭和二三年生まれ、昭和五六年から新聞販売業を営んでいる。
原告X11は、昭和五九年三月一日、被告日興證券久留米支店に口座を開設した。以降、原告X11は、株式を中心として、証券取引を行っている。A25は、昭和六〇年二月、原告X11の担当となった。取引はほとんどがA25の勧誘によるものであったが、株式取引の中には、原告X11の注文によるものもあった(甲ニ三〇〇四、乙ニ三〇〇一ないし三〇〇三、三〇〇八、証人A5、原告X11)。
2 本件ワラント取引の経緯
A25は、昭和六二年八月五日、原告X11宅を訪問して、本件ワラントを勧誘した。A25は、ワラントとは株を引き受けることができる権利であること、ワラント価格は株価と連動するが、その変動は株価と比較すると大きいこと、権利行使期限を過ぎると価値がゼロとなるが、概ね権利行使期限が四、五年残っているので、その間に利益を出すチャンスはあること、キリンビールの株価の見通し等を説明した。
その結果、原告X11は、本件ワラントを買い付けることとした。そして、原告X11は、同日付で、外国証券取引口座設定約諾書に署名押印して、被告日興證券に差し入れた、翌日、被告日興證券は、本件ワラントの預り証を発行した。右預り証には、外国証券であること、行使期限が平成四年七月二三日であることが記載されている(甲ニ三〇〇一、乙ニ三〇〇二、三〇〇四、証人A25)。
3 原告X11供述について
これに対し、原告X11は、A25から、良い話がある、株で儲けていないからワラントを買わないか、利益が上がるのは間違いない、じっと持っていればいいというような勧誘を受けた、ワラントの商品性についての説明は受けておらず、投資信託のようなものであると思っていたと供述する。しかし、原告X11は当時株式取引で利益を上げていたことからすると、A25が株で儲けていないからという勧誘をしたとは考え難いこと、原告X11自身キリンビールという銘柄を聞いたことは自認しているところ、投資信託の商品名が具体的な会社名であるとは考えられないことからすると、採用することができない。
4 本件ワラント取引後の経緯
被告日興證券は、原告X11に対し、平成三年九月三〇日付で、新株引受権証券(ワラント)の預り残高明細を送付した。右明細には、本件ワラントの時価が八三〇三円であることが記載されていた。原告X11は、これを見て驚き、被告日興證券久留米支店に電話をかけた。そして、担当者A25が難波支店に転勤していたため、他の社員に苦情を言った。
本件ワラントは、平成四年七月二三日、権利行使期限を迎え、価値がなくなった。なお、本件ワラントは、昭和六二年八ないし一〇月、昭和六三年四、五月ころ、買付価格を上回るポイントであった(甲ニ三〇〇二ないし三〇〇四、乙ニ三〇〇六、原告X11)。
二 原告X11主張の検討
1 適合性の原則及び説明義務違反について
以上の事実からすると、確かに、A25は、原告X11に対して、ワラントとは株を引き受ける権利であること、ハイリスクハイリターンであること、価格は株価と連動し、値動きが大きいこと、権利行使期限があり、それを徒過すると価値がなくなること等を説明している。
しかし、原告X11は、証券取引を昭和五九年以降行っているが、それほど頻繁に取引を行っているわけではなく、かつ取引のほとんどは株式である。原告X11が、日経新聞を扱っている新聞販売店を経営している事実を考慮しても、証券取引に熟知しているということはできない。
また、ワラントの性質上、権利行使価格の意義は重要である。しかし、先に認定した事実によると、A25がそのことを十分に説明したとは言い難い。右説明は小冊子等を利用したものでもなく、口頭によるものであるため、ワラントの商品性を理解するには困難なものとなっている。A25も、ワラントを勧誘する際、書類や図面等を利用したとは供述していない。原告X11は、本件ワラントを売却する機会があったにもかかわらず売却していないが、これは、原告X11がワラントの商品性やその危険性を十分に理解していなかったことを窺わせる事情のひとつでもある。
したがって、A25の説明では、原告X11にワラントの商品性を十分理解させることは困難であり、ワラントの商品性を十分に説明しなかった違法があるというべきである。
2 原告X11の損害
原告X11は、二〇一万四〇〇〇円で本件ワラントを買い付けているところ、先に認定したとおり、本件ワラントは権利行使期限を徒過し、価値がなくなったのであるから、原告X11は右金額の損害を被った。
なお、被告日興證券は、本件ワラント買付後の株価の下落割合を損害額から控除すべきと主張するが、説明義務違反による損害は原告X11が本件ワラントを買い付けた時点で生じているのであって、本件ワラント買付後の株価の下落は過失相殺で考慮すべき一事情とはなりえても、当然に損害から控除されるあるいは説明義務違反による損害とはならないというものではないというべきである。
3 過失相殺
もっとも、原告X11も、自らの判断で株式に投資するなど、証券取引について、ある程度の経験、知識を有していた。また、本件ワラントの預り証(甲ニ三〇〇一)には、権利行使期限として平成四年七月二三日との記載があり、期限付きの商品であることは容易に推測ができ、A25も権利行使期限を徒過すると価値がなくなることは説明している。原告X11も、少なくとも自らが買い付けた商品が元本保証ではないことは認識していたのであるし、先に認定した事実からは、本件ワラントの買付に際しては、ワラントがリスクが高いことをある程度認識した上で、ワラントを買い付けたものと認められる。
したがって、原告X11にも、本件ワラント買付について、その商品性や危険性について十分に調査、検討しないまま、ワラントを買い付けた過失があるというべきである。そして、A25の説明内容やその態様、原告X11の投資経験や、原告X11がワラントを危険性の高い商品であることを認識していたことからすると、原告X11及びA25の各過失割合は五割と認めるのが相当である。
4 弁護士費用
本件と相当因果関係のある弁護士費用は、一二万円であると認められる。
三 結論
したがって、原告X11の被告日興證券に対する請求は、一一二万七〇〇〇円及びこれに対する平成五年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
第一七原告X12、被告日興證券
(前提事実)
原告X12は、平成元年一一月二九日、被告日興證券久留米支店で、被告担当者A5の勧誘により、三菱地所ワラント一三(以下、本項で「本件ワラント」という。)を単価二四ポイント、代金五一七万六八〇〇円で買い付けた。
(原告X12の主張)
一 適合性の原則違反
原告X12は、昭和五四年ころ、能楽師である父の仕事を手伝うようになるまでは、専業主婦であった。被告日興證券との取引は頻繁ではなく、野村證券との取引内容も、株式を長期間保有するというものであった。被告日興證券との取引目的も少し利益がでればいいというもので、銀行感覚であった。
このように、原告X12は、危険性の高いワラント取引を行う適合性を有していないにもかかわらず、A5は、原告X12にワラントを勧誘した。
二 説明義務違反
原告X12は、A5から、ワラントについて、会社の権利を外国のお金で買うものである、外国債券で利益が大きいという説明しか受けていない。現に、原告X12は、本件三菱地所ワラントを、ワラント価格(ポイント)が下がっていくにもかかわらず売却処分をしていないが、これは、原告X12が、ワラントの商品性を理解していなかったことを示すものである。
このように、A5は、原告X12に対し、ワラントの商品性やその危険性について、十分な説明をしなかった。
三 虚偽表示、誤解を生じさせる行為
A5は、原告X12にワラントを勧誘する際、「社債」「償還期日」などと、ワラントの性質を誤解させるような語句を使用した。
四 断定的判断の提供
A5は、原告X12にワラントを勧誘する際、「絶対儲かる。」「損はしない。」などと、断定的判断の提供をした。
(被告日興證券の反論)
一 適合性の原則について
原告X12は、昭和一一年生まれ、地元の名門校である○高校、○女子大学を卒業、現在は○○能楽師である。原告が主張するような一介の主婦ではない。なお、原告の夫は、○○大学法学部を卒業、現在は○○大学法学部教授である。
また、原告X12は、従前野村證券松江支店で証券取引を行った経験を有し、被告日興證券久留米支店でも、昭和五七年ころから株式投資信託、転換社債の取引を開始、昭和六三年ころからは株式の取引も行うようになった。これらの取引の中には、相対取引や客注による取引もあり、銘柄も優良株や大型株ばかりというわけでもない。
このような原告X12の経歴、投資経験からすると、原告X12にワラントを勧誘することは何ら適合性の原則に反するものではない。
二 説明義務について
A5は、平成元年五月二四日、原告X12に、戸田建設ワラント三六を勧誘するに際し、ワラントとは株を買い付けることができる権利であること、値動きが大きいこと、権利行使期限を過ぎるとゼロとなることを説明した。また、同月二九日、ワラントの商品性の説明が記載されている小冊子(「外貨建ワラント、その魅力とポイント」)を利用して、ワラントの商品性を説明した。原告X12は、ワラント取引に関する確認書に署名押印している。さらに、被告日興證券は、平成二年四月に発行されたワラント取引説明書を、同月以降年に一回送付している。
したがって、被告日興證券は、ワラントの商品性について、原告X12に十分説明している。
三 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
被告日興證券担当者A5は、原告X12にワラントを勧誘する際、断定的判断を提供したり、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為をしたことはない。
(当裁判所の判断)
一 事実経過
1 原告X12の社会的地位、投資経験
原告X12は、昭和一一年生まれ、○高校、○女子大学を卒業、現在は○○能楽師である。なお、原告の夫は、○大学法学部を卒業、現在は○○大学法学部教授である。
また、原告X12は、昭和五〇年に松江市から久留米市へ転居したが、松江市に在住中、野村證券で証券取引を行っていた。原告X12は、久留米市へ転居後は、被告日興證券久留米支店で、原告X12あるいは三人の子ども(A26)名義で、証券取引を行っていた。原告X12の昭和五七年以降の証券取引を見ると、当初は株式投資信託や転換社債を取引していたが、昭和六二年にはNTT株の取引を行い、昭和六三年一〇月以降は株式投資も行うようになった。取引回数をみても、昭和六三年以降はかなり増えている。なお、ワラント買付以前の証券取引のうち、平成元年一月のダイヘン、三菱信託銀行の各転換社債は、原告X12の注文による取引で、被告日興證券社員の勧誘によるものではなかった(甲ニ四〇〇一、乙ニ四〇〇一ないし四〇一一、四〇一五、四〇一八、証人A5、原告X12)。
2 戸田建設ワラント取引
A5は、昭和六二年四月、被告日興證券久留米支店に配属となった。そして、昭和六三年九月に原告X12の担当となった。原告X12の取引のうち、同年一〇月二〇日のNTT株一株の買付以降の取引を担当した。
A5は、平成元年五月二四日、原告X12に電話をかけ、ワラントを勧誘した。A5が原告X12にワラントを勧誘したのは、原告X12はこれまで株式、転換社債、投資信託に投資していたが、X12から利益が少ないといわれたためであった。A5が、原告X12に、ワラントを案内したところ、原告X12はワラントが値動きが激しい商品であることを認識していた。A5は、ワラントがハイリスクハイリターンであること、リスクについては、ワラントとは株式を買い付けることができる権利であり、権利の売買となるため、値動きが大きいこと、権利であるから期限があり、行使期限内に権利行使しないと価値がなくなること、外貨建ワラントだと為替の影響を受けることを説明した。そして、A5は、戸田建設の株価やその値動きの状況等戸田建設についての情報を提供するとともに、戸田建設の株式に投資するよりもワラントに投資した方が利益が大きい、権利行使期限については四年くらい残っていると話をした。A5は、原告X12からどのようにしてポイントがつくのか質問されたため、戸田建設ワラントの権利行使価格が一三三三円であること、それ以上に株価が上がれば戸田建設ワラントのポイントが上昇することなども説明した。A5が、電話で以上のような話を一五分程度した結果、原告X12は、戸田建設ワラント三六を単価三〇ポイント、代金六四八万円で買い付けることとした。翌日、A5は原告X12に電話をかけ、戸田建設ワラントが値上がりしていることを説明して、同ワラントの売却を勧めた。その結果、原告X12は同ワラントを売却することとした。原告X12は、同ワラント取引の結果、二二万三七〇四円の利益を得た。
A5は、同月二九日、精算のため原告X12を訪問、「外貨建ワラント、その魅力とポイント」と題する小冊子を持参して、ワラントの商品性を説明した。A5は、特に三頁のワラントの約定代金の計算の仕方、ポイントの意義、四頁のグラフを示しながら、ワラント投資がハイリスクハイリターンであること、ワラントについて、ワラントとは株を引き受けることができる権利のことであり、権利行使期限があり、それを過ぎると権利がなくなり、ゼロとなること、外貨建なので為替の影響を受けること、権利の売買であるから値動きが大きいことを説明した。株と比較して値動きが大きいことは、戸田建設ワラントを例に挙げて、株価は一パーセントほどしか上昇していないが、ワラント価格は六パーセントほど上昇したと説明した。その上で、原告X12に、右小冊子に添付されている確認書に署名捺印してもらった。また、外国証券取引口座設定約諾書にも署名捺印してもらった(乙ニ四〇〇二、四〇一二ないし四〇一六、証人A5)。
3 鈴木自動車ワラントの取引
A5は、同年六月一三日、原告X12に電話をかけ、鈴木自動車ワラント四三を勧誘した。A5は、同ワラントの権利行使期限が四年程度あること、権利行使価格、鈴木自動車の株価の状況とその見通し、株価が権利行使価格を上回るとワラント価格(ポイント)が上昇することを説明した。その結果、原告X12は、同ワラントを、一七・七五ポイント、代金五三〇万〇一五〇円で買い付けることとした。その後、原告X12は、同年八月一八日、同ワラントを、二〇・五〇ポイント、代金五七七万四六四一円で売却、四七万四四九一円の利益を出した。これは、A5が原告X12に、電話で同ワラントのポイント、売却した場合の利益を説明したためであった(乙ニ四〇〇二、四〇一五、証人A5)。
4 本件ワラントの取引
A5は、同年一一月二九日、原告X12に電話をかけ、本件ワラントを勧誘した。A5が本件ワラントを勧めたのは、当時地価が高騰しており、三菱地所の株価の上昇が期待できる状況であったためである。A5は、原告X12に、権利行使価格と現在の株価を説明し、株価は権利行使価格を下回っているが、ほぼ近い水準にあること、株価が上昇するとワラント価格(ポイント)の上昇も見込まれること、権利行使期限が約四年あることを説明した。その結果、原告X12は、本件ワラントを買い付けた。被告日興證券は、原告X12に、同年一二月取引明細書を送付した。
A5は、その後、原告X12に取引を勧誘したり、原告X12から注文を受ける機会を利用して、本件三菱地所ワラントのワラント価格(ポイント)を伝えていた。
被告日興證券は、平成四年三月、同年八月、原告X12に預り明細書を送付した。そして、同年九月に、本件ワラントの時価を記載した新株引受権証券(ワラント)預り明細書を送付した。被告日興證券久留米支店は、平成五年五月、ワラント取引説明書を送付した。
なお、本件ワラントは、平成六年四月二〇日、権利行使期限を迎え、価値がなくなった(甲ニ四〇〇二ないし四〇〇四、四〇〇六、四〇〇七の1、2、乙ニ四〇〇二、四〇一五、四〇一七、証人A5)。
5 原告X12供述の検討
これに対し、原告X12は、戸田建設と鈴木自動車の各ワラント取引をした覚えはない、ワラントについては、外貨を組み立てて買うもの、外国債券で利益が大きいという話しか聞いていないなどと供述する。
しかし、右供述は、証人A5の証言内容と矛盾するばかりか、原告X12が平成元年五月二四日付でワラント取引確認書を被告日興證券に差し入れていること(原告X12は、右確認書は外貨建ワラント、その魅力とポイントと題する小冊子と一体となっているところ、切り離された確認書そのものに署名押印したと供述するが、それ自体不合理であるといわざるをえない。)、先に述べたとおり、右小冊子には、ワラントの商品性の説明がなされていること、同日付の外国証券取引口座設定約諾書にも署名押印していること、本件ワラントについても、被告日興證券が送付した取引明細書や預り証には権利行使期限の記載があることからすると、採用することはできない。
二 原告X12主張の検討
1 適合性の原則及び説明義務違反について
以上の事実からすると、確かに、原告X12は、昭和五〇年ころから被告日興證券久留米支店で証券取引を行っているが、取引のない年もあり、それほど積極的に取引をしていたわけではなかった。また、投資対象も、投資信託や転換社債が中心であった。もっとも、昭和六二年にはNTT株の売買を行っており、その後は転換社債や投資信託の取引回数も増え、昭和六三年一〇月、A5が原告X12の担当となってからは、株式投資も行うようになっている。しかし、株式投資についてみると、戸田建設ワラント買付までには、NTT株を除くと五か月程度の投資経験しかない。右期間の取引も、転換社債等が中心である。そうすると、原告X12は、それほど投資経験があるということはできない。
しかしながら、A5は、戸田建設ワラント取引の後、小冊子を利用して、ワラントの商品性について、ワラントとは株式を引き受けることができる権利であること、権利行使期限があり、その期限を過ぎると価値がなくなること、権利行使価格が予め決まっており、ワラント価格(ポイント)は現在の株価あるいは予想される株価と権利行使価格との差に影響されること等を説明するとともに、右小冊子を渡している。そして、鈴木自動車ワラント及び本件ワラントを勧誘する際には、銘柄毎の権利行使価格、権利行使期限及び現在の株価と今後の見通し等を説明している。そして、A5は、原告X12に、ワラント取引後も、本件ワラントのポイント等を伝えていた。
以上のようなA5の説明内容や態様等に、原告X12が、本件ワラント取引以前にワラントの売買を行った経験があることを考慮すると、原告X12に本件ワラントを勧誘したことが適合性の原則に違反するあるいはA5の説明が不十分不適切で違法であるとまでは認められない。
2 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
以上の事実によれば、A5が原告X12にワラントを勧誘する際、断定的判断を提供したとは認められない。また、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為をしたとも認められない。
三 結論
したがって、原告X12の被告日興證券に対する請求は理由がない。
第一八原告X15、被告日興證券
(前提事実)
原告X15は、平成二年六月五日、被告日興證券久留米支店で、被告担当者A27の勧誘により、花王ワラント〇二(以下、本項で「本件ワラント」という。)を単価二五ポイント、代金三〇五万六〇〇〇円で買い付けた。
(原告X15の主張)
一 適合性の原則違反
原告X15は、四〇年以上病院経営をしていたが、特に証券取引に詳しいわけでもなかった。かつて、信用取引、外国証券取引を行ったが、いずれも事情がよくわからないまま始めて失敗しており、その後は、右各取引を行っていない。また、自ら銘柄を指定して証券取引を行うということもなかった。さらに、投資顧問会社などに相談したこともなかった。
このように原告X15は、リスクの高いワラント取引を行う適合性を有していなかったにもかかわらず、A27は、ワラントの買付を勧誘した。
二 説明義務違反
原告X15は、ワラントを、債券あるいは投資信託の一種であると誤解していた。これは、A27が、ワラントを、右のような商品であると説明したからに他ならない。また、A27が、ワラントの商品性を十分に説明していたならば、原告X15がワラントを紙屑になるまで保有し続けるということはなかったはずである。さらに、本件ワラントは、いわゆるマイナスパリティであったのであるから、特にワラントの商品性を十分に説明しなければならず、電話による説明では不十分である。
しかるに、A27は、原告X15に、ワラントの商品性を十分に説明することなく(小冊子等を利用した説明をしていない。)、かえって債券あるいは投資信託の一種であるがごとき説明をした。また、本件ワラントの勧誘は電話によるものであった。
三 虚偽表示、誤解を生じさせる行為
A27は、原告X15にワラントを勧誘する際、「社債」「償還期日」などと、ワラントの性質を誤解させるような語句を使用した。
四 断定的判断の提供
A27は、原告X15にワラントを勧誘する際、「絶対儲かる。」「損はしない。」などと、断定的判断の提供をした。
(被告日興證券の反論)
一 適合性の原則について
原告X15は、昭和二八年、○○医科大学を卒業後、X15内科小児科を経営していた。本件ワラントを買い付けた平成二年ころのX15内科小児科の収入は七〇〇〇ないし八〇〇〇万円であり、入院患者も一五名ほどいた。
また、原告X15は、昭和四〇年代から証券取引を開始、昭和五一年ころには頻繁に株式取引を行っていた。その取引内容も高額であるばかりか、大半は信用取引であった。取引の中には、原告X15からの注文によるものもある。外国証券の取引経験もあり、為替レートが円高となったために損失を出した取引も六例ほどある。相対取引である株式投資信託の取引経験もある。
このような原告X15の経歴、投資経験からすると、原告X15にワラントを勧誘することは何ら適合性の原則に反するものではない。
二 説明義務について
A27は、平成二年四月あるいは五月ころ、原告X15宅を訪問して、原告X15にワラントの商品性について説明した。A27は、ワラントが株を決められた値段で買うことができる権利であること、転換社債と異なり、権利行使するには新たに資金を払い込む必要があること、権利行使期限があることなどを説明した。ワラントの値動きについても、表を用いて説明し、値動きが大きいことも伝えた。
また、被告日興證券は、本件ワラントの買付後、原告X15に、取引報告書及び預り証を送付した。右預り証には、権利行使期限があり、それ以降は無効であることが明記されている。
さらに、原告X15は、国内新株引受権証券(国内ワラント)取引説明書送付を受け、確認書に署名押印している。
このように、被告日興證券は、原告X15に、ワラントの商品性やその危険性について十分に説明した。
三 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
被告日興證券担当者A27は、原告X15にワラントを勧誘する際、これらの行為をしたことはない。
(当裁判所の判断)
一 事実経過
1 原告X15の社会的地位、投資経験
原告X15は、大正一〇年五月八日生、昭和二八年○○医科大学を卒業後、父親が開業していたX15内科小児科医院を引き継いだ。平成八年九月、同病院を廃業して現在に至っている。
原告X15は、昭和四〇年ころから証券取引を行うようになった。被告日興證券では、昭和四八年に取引口座を開設、昭和五一年以降をみると、頻繁に株式投資を行っていた。特に、昭和五三年六月から昭和五四年五月にかけては、頻繁に信用取引を行っている。しかし、昭和五四年五月以降の取引回数はそれほど頻繁ではなく、年に数件程度となっている。その後、昭和六一年ころから取引回数も増え始め、株式、外国証券、投資信託、転換社債等に投資するようになった(甲ニ五二〇一、乙ニ五二〇一ないし五二〇五、五二〇九ないし五二一一)。
2 原告X15の取引経緯
被告日興證券社員A27は、昭和六三年三月、被告日興證券久留米支店に配属となり、同年五月から平成二年六月まで、原告X15の担当であった。
原告X15は、平成元年六月に佐々木硝子、同年七月に三菱重工の各株式を購入しているが、これは原告X15からの注文によるものであり、A27が勧誘したものではなかった。
A27は、平成二年四月あるいは五月ころ、原告宅を訪問して、ワラントを勧誘した。A27が原告X15にワラントを勧誘したのは、原告X15が医者であり一定水準以上の資産を有していたこと、以前信用取引を行っていたこと、株式についても非常に値動きの大きい銘柄のものを注文していたこと、外国証券も購入したことがあるためであった。A27は、原告X15に、まずワラントとは株を買い取ることができる権利であること、その権利を売買するのがワラント取引であることを説明した。次に、権利行使価格については、株価が上下に関わりなくその価格で株を買い取ることができること、また転換社債と対比して、転換社債は新たに資金を払い込むことなく株式に転換できるが、ワラントの場合は新たに資金を払い込むことによって株式を買い取ることができると説明した。A27は、これらのことを表を使って説明した。さらに、ワラントには、権利行使期限があり、その期限までにワラントを売却するか、権利行使価格で株式を買い取らないとその権利はなくなってしまうと説明した。為替についても、レートによって受渡し代金に変動が生じると説明した。この時には、原告X15がワラントを買い付けるまでには至らなかった(乙ニ五二〇一、五二〇九、五二一〇ないし五二一二、証人A27)。
3 本件ワラント取引の経緯
A27は、同年六月五日、原告X15に電話をかけ、本件ワラントを勧誘した。A27は、原告X15に、同ワラントの権利行使価格が一七六三円であること、現在の花王の株価が一六〇〇円程度であること、権利行使期限が平成五年九月一六日であること、花王の業績が、来期一〇パーセントの増益が予想されており、海外に拠点を広げるという話もあって、将来性があるという話をした。そして、ワラント価格(ポイント)が二五ポイントであること、円に換算したときの価格についても説明した。その結果、原告X15は同ワラントを買い付けることとした。
A27は、同日、原告宅を訪問、ワラント取引に関する確認書に署名捺印してもらった。この際、A27は、原告X15に、ワラントの取引説明書を交付した。また、被告日興證券は、同月二八日付で、原告X15に、同ワラントの預り証を送付した。右預り証には、権利行使期限が平成五年九月一六日であり、以降無効であることが記載されている(甲ニ五二〇二、乙ニ五二〇一、五二〇六、五二〇七、五二一〇、五二一一、証人A27)。
4 その後の経緯
A28は、平成三年八月、A27に代わって、原告X15の担当となった。
被告日興證券は、平成四年三月三一日付で、ワラントの預り残高明細を送付した。それには、本件ワラントの時価が二万六五七〇円であることが記載されていた(甲ニ五二〇三)。
A28は、平成四年夏ころ、原告X15から、ワラントの価格の件で納得がいかないと連絡を受けたため、支店長とともに、原告X15を訪問した。原告X15は、ワラントの価格が下がっている、話が違うではないかと苦情を言ったのに対し、A28らは、株価も低迷しているので、株価の回復を待つしかないと返事をした。その時、A28は、本件ワラントの権利行使期限が平成五年九月一六日であり、この時までに株価が回復しないとワラントはゼロとなると説明した。これを聞いても、原告X15は特に驚いた表情を示さなかった。
原告X15は、本件ワラント以降ワラント取引はしなかったが、被告日興證券久留米支店での取引は続いた。原告X15は、同年九月、一〇〇万円を入庫してカプコンの転換社債を購入した。また、平成五年四月には、一〇〇〇万円超の現金を入庫して、NTT株一〇株を購入した。このNTT株の購入は、原告X15の注文によるものであった。さらに、同月、二三六万九三一三円を入庫して、川崎重工株五〇〇〇株も購入した。
原告X15は、平成五年八月一六日、本件ワラントを、〇・〇一ポイント、代金七九七円で売却した(甲ニ五二〇六、五二〇七、乙ニ五二〇一、五二〇九、五二一〇、五二一三、証人A28)。
被告日興證券は、同年九月、取引残高確認書を原告X15に送付しており、原告X15は同月三日付で右書面に署名捺印して返送した。右書面には、取引、取引残高等について異議がないことを確認する旨記載されている(乙ニ五二〇八)。
5 原告X15の供述について
これに対し、原告X15は、A27が担当となったときに株式ではなく投資信託を中心として運用するようA27に指示していた、ワラントについて説明は受けておらず、本件ワラントについても転換社債の一種であると思っていた、ワラント勧誘に際してA27から、投資信託が満期となったから花王に乗り移らないかと勧誘された等と供述する。
しかし、右供述内容は、原告X15が、平成元年六月及び七月、自らの判断で株式(佐々木硝子、三菱重工業)を買い付けており、それ以降も株式投資を継続していること、株式から投資信託に変更した銘柄もないこと、A27が満期となったと説明したという投資信託も満期は平成四年五月二六日であるといった客観的事実と矛盾する。
また、転換社債とワラントの預り証は明らかに異なり、ワラントの預り証には利率の記載もない(乙ニ五二一五の1ないし6)。さらに、原告はワラント取引確認書に署名押印しており、ワラントの説明書の交付も受けているばかりか、残高確認書にも署名押印している。これらのことからすると、原告X15が、ワラントを転換社債であると理解していたとは認められない。
したがって、原告X15の供述は採用できない。
二 原告X15主張の検討
1 適合性の原則及び説明義務違反について
以上のとおり、原告X15は、長年病院経営をしており、取引内容からすると資産も相当程度有していたと認められる。証券取引についても、昭和四〇年ころから取引を始め、特に昭和五三、五四年ころは信用取引を中心とした取引を頻繁に行っている。また、昭和六一年ころからは再び取引を活発に行うようになり、商品も株式、外国証券、投資信託、転換社債と多岐にわたっている。
このような、原告X15の社会的地位、投資経験等からすると、原告X15にワラントを勧誘することが適合性の原則に違反するものとは認められない。
また、A27は、原告X15に、ワラントについて、表を用いるなどしてその商品性を説明しており、ワラントの意義、権利行使価格の意義、権利行使期限がありそれを過ぎると価値がなくなること、ワラントは値動きが激しい商品であることなどを説明しているのであるから、その説明が不十分あるいは不適切であるとは認められない。
2 断定的判断の提供、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為について
先に認定したとおり、A27が、原告X15に、ワラントを勧誘する際、断定的判断を提供したり、虚偽あるいは誤解を生じさせる行為をしたとは認められない。
三 結論
したがって、原告X15の被告日興證券に対する請求は理由がない。
(裁判長裁判官 宮良允通 裁判官 野田恵司 裁判官 鈴嶋晋一)
当事者目録
福岡県浮羽郡<以下省略>
甲事件原告 X1
福岡県大牟田市<以下省略>
甲事件原告 X2
福岡県大牟田市<以下省略>
甲事件原告 X3
福岡県大川市<以下省略>
甲事件原告 X4
熊本県荒尾市<以下省略>
甲事件原告 X5
福岡県久留米市<以下省略>
乙事件原告 X6
右同所
乙事件原告 ○○
右代表者代表取締役 X7
福岡県三潴郡<以下省略>
乙事件原告 X8
佐賀県鳥栖市<以下省略>
乙事件原告 X9
福岡県筑後市<以下省略>
乙事件原告 X10
福岡県小郡<以下省略>
丙事件原告 X11
福岡県久留米市<以下省略>
丁事件原告 X12
福岡県大川市<以下省略>
丁事件原告 X13
福岡県大川市<以下省略>
丁事件原告 ○○
右代表者代表取締役 X14
佐賀県三養基郡<以下省略>
戊事件原告 X15
右原告ら訴訟代理人弁護士 三溝直喜
同 中野和信
同 塙信一
同 椛島修
同 高橋謙一
同 武藤知之
同 原田義継
同 堺紀文
同 馬奈木昭雄
同 内田省司
同 永尾廣久
同 大脇久和
同 井出国夫
同 塙秀二
同 下東信三
同 村上博
同 吉村敏幸
同 大神周一
甲、乙、丙、丁事件三溝直喜訴訟復代理人弁護士戊事件原告訴訟代理人弁護士 樋口明男
東京都中央区<以下省略>
甲、乙事件被告 野村證券株式会社
右代表者代表取締役 A1
右訴訟代理人弁護士 丸山隆寛
東京都千代田区<以下省略>
甲、丁事件被告 株式会社大和証券グループ本社
右代表者代表取締役 A2
右訴訟代理人弁護士(甲事件) 池田稔
同 松鵜潔
同(丁事件) 加藤石則
東京都中央区<以下省略>
乙事件被告 国際証券株式会社
右代表者代表取締役 A3
右訴訟代理人弁護士 松下照雄
同 鈴木信一
同 本杉明義
同 川戸淳一郎
同 竹越健二
同 白石康広
同 池田秀雄
同 雨宮啓
東京都千代田区<以下省略>
乙、丙、丁、戊事件被告 日興證券株式会社
右代表者代表取締役 A4
右訴訟代理人弁護士 松﨑隆
同 斉藤芳朗
(なお、以下「株式会社」の表記は省略する。また、大和証券グループ本社を「大和証券」と略称する。)
<以下省略>